【PICK UP INTERVIEW vol.8】自分の気持ちに嘘をつかず、まっすぐにできる仕事 WWFジャパン山岸尚之さん

Hoopus.(フーパス)は、鎌倉サステナビリティ研究所が運営する、サステナビリティと気候変動問題の解決に特化した求人サービスです。PICK UP INTERVIEWでは、気候変動解決に関わるお仕事情報をピックアップ。それぞれの団体で働く人々の熱い想いや職場の雰囲気をお伝えします。

今回お話を伺ったのは、世界的なネットワークを持ち、国際社会やビジネス界で野生生物保護や気候変動についての取り組みを促進する重要な役割を果たしてきた国際NGO・WWFジャパンの山岸尚之さんです。長年気候・エネルギー分野の活動に携わってきた山岸尚之さんに、国際団体ならではの気候変動への取り組みのおもしろさや、今NGOの活動の現場で求められる人材についてお伺いしていきます。

※この記事は、2023年3月の取材をもとに2023年12月に一部編集を加えたものです。本文中にある肩書き・組織説明・制度内容などは最新のものと異なる場合がありますのでご了承ください。

自然保護室長の山岸尚之さん。
2003年にWWFジャパンへ入職して以来、気候・エネルギー分野を中心に、活躍を続けている。

山岸尚之:立命館大学国際関係学部に入学した1997年にCOP3(国連気候変動枠組条約第3回締約国会議)が京都で開催されたことがきっかけで気候変動問題をめぐる国際政治に関心を持つようになる。2001年3月に同大学を卒業後、9月より米ボストン大学大学院にて、国際関係論・環境政策の修士プログラムに入学。2003年5月に同修士号を取得。卒業後、WWFジャパンの気候変動担当オフィサーとして、政策提言・キャンペーン活動に携わるほか、国連気候変動会議に毎年参加し、国際的な提言活動を担当。2020年より自然保護室長。


まずは、WWFジャパンについて教えてください。一般的には野生生物保護の活動がよく知られていますが、気候・エネルギーの分野でも、存在感を発揮していらっしゃいますよね。

WWFは、国際的なネットワーク全体として「人と自然が調和して生きられる未来」の実現をミッションに掲げています。この言葉からもお分かりいただけるように、人と自然環境全般を守ることがミッションです。

1961年に設立され、元々は野生生物の保護を中心とした団体でしたが、80年代後半から90年代に、気候・エネルギー分野が活動のスコープに入ってきました。というのも、温暖化が進んでしまうと、守りたい野生生物も守れないという冷徹な予測があったからなんですね。

生物多様性が減っていくのには5大要因があるといわれています。一番大きい要因が、森林伐採などの土地利用の変化、2番目は乱獲などの直接採取、そして3番目が気候変動です。

例えば、日本にもライチョウという、高山帯にすむ野鳥がいますよね。温暖化が起きると、山でも暖かくなる高度が上がってくるので、ライチョウのような種のすみかはどんどん狭くなっていきます。さらに、捕食者である他の動物が高山帯へ移動する可能性も高まります。このように、野生生物は気候変動が進行するスピードに対応できずに、絶滅への圧力が高まっていってしまうのです。こういったことが至る所で起きます。

気候全体が変わってしまえば、野生生物保護の分野でどれだけ頑張っても取り組みが帳消しになるくらいのインパクトがあります。気候変動をどうにかしないと、野生生物は守れないんです。今では、気候変動そのものの重要性も認識されていますが、WWFにとって大事なきっかけだったようです。

WWFジャパンでは気候変動へどのようにアプローチしていますか?

まず一つ目が国際的により良い気候変動への取り組みのルールができるように働きかけることです。

国連気候変動枠組条約の締約国会議(COP)は、毎年11月か12月に開催されていますが、実際にこうした国連の会議に行って、会議の合間に政府代表団と意見交換をしたり、カフェテリアや喫煙室などで休憩中の人に話しかけて情報提供したり、政府からは発信されていない問題点を指摘してメディアに報道してもらったり、あの手この手でロビーイングをして、より良いルールを作ることを提案していきます。

WWFは国際社会でもリスペクトいただいている団体なので提言を取り入れていただきやすく、団体としての強みが発揮されてきた活動分野です。

COP23の議長との公開対話で、世界の環境NGOを代表して発言する山岸さん。

そして、国内でも同じような働きかけを行います。官僚や国会議員の方々に対して、ぜひこういう政策を取り入れてください、あるいは、こういう政策はやめてくださいね、というような政策の提言をしていきます。

また、企業の方々とパートナーシップを結ぶというWWFらしいアプローチもとっています。SBTi(Science Based Targetイニシアティブ)という企業の温暖化対策のスタンダードを作り、企業に参画してもらうという活動は、過去10年ほどで最も成果を上げてきたことの一つです。

SBTiは、WWFが他の3つのパートナー団体と一緒に作ったもので、企業が温暖化対策をするならここまでやってほしいという国際標準です。企業が採用すれば、その企業のCO2削減の取り組みが一定水準に達することになり、企業からすれば環境NGOも認めているスタンダードで温暖化対策をしていると示せることにもなります。時代の流れとマッチして、世界で4,614の企業がSBTiになんらかの形で参画していて、今ではSBTiの取得は事実上の業界標準になっています。

WWFは、紙についてはFSC、パーム油に関してはRSPO、水産物に関してはMSCやASCなどの認証制度の立ち上げにも携わってきた歴史があり、こうした「良いものの基準を示して、そこに誘導する」という方法はWWFの得意モデルです。

こうした活動を展開する「気候・エネルギーグループ」どのようなチームですか?

現在は、5名の正職員と1名のアシスタントがいます。

先ほどお話しした国際・国内の政策担当、国内の政策担当、企業とのパートナーシップ担当が1名ずついます。

加えて、メガソーラーを作るために森林伐採が起きるような事例も見受けられる中、持続可能な地域の再生可能エネルギーとはどういうものなのか、実際のプロジェクトを通して形作る担当が1名います。

そして、私たちが「非国家アクター」と呼ぶ企業や自治体、NGO、消費者団体などから声を集めて政府へ届けるという活動の担当が1名います。

この5名に加えてすべての活動をサポートする有能なアシスタントが1名、というのが現在のチームの形です。

山岸さんご自身は、2003年に入職されて以来、WWFで活動を続けていらっしゃいますよね。山岸さんにとって、WWFの魅力はなんでしょうか?

入職してあらためて感じているのは、NGOは自分が世の中に対して正しいと思っていることをあらゆる手段を使って達成することを仕事にできる職場だということです。

自分に嘘をつかなくていい、自分の気持ちをストレートに仕事にできるというのは、他にはないアドバンテージですし、人生をかけてやっていく価値があると思わせてくれます。

国連の気候変動会議に参加し、現地から日本へ情報を発信する山岸さん。

また、私自身にとって大きかったのは、国際団体だということです。

WWFは国際NGOなので、気候・エネルギー分野の活動では特に海外のオフィサーとのやりとりは絶対に発生します。現場担当者だった頃は、国連の会議でみんなで集まって活動するのが一番好きでした。毎年ロビー活動するメンバーが世界中から集まってきて、ほとんど全員国籍も違う30名くらいの人たちが、一丸のチームとなって働くという経験は、なかなか他の職場ではない体験だと思っています。

今でも当時から一緒に同僚としてやっている海外のオフィサーは「戦友」のような感覚ですし、そういう繋がりを国を超えて持てるのはWWFならではだと思いますね。


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