【PICK UP INTERVIEW vol.11】本当に豊かになるフェアな経済のルールメイキングを Climate Bonds Initiative 森下 ⿇⾐⼦さん
Hoopus.(フーパス)は、鎌倉サステナビリティ研究所が運営する、サステナビリティと気候変動問題の解決に特化した求人サービスです。PICK UP INTERVIEWでは、気候変動解決に関わるお仕事情報をピックアップ。それぞれの団体で働く人々の熱い想いや職場の雰囲気をお伝えします。
今回インタビューしたのは、Climate Bonds Initiative(CBI)のジャパン・プログラム・マネージャー*の森下⿇⾐⼦さんです。大学時代、グローバル経済のルールメイキングについて学んだことをきっかけに、「本当にみんなが潤う、フェアな経済の仕組みとは?」と疑問を持つようになったという森下さん。その疑問を探求するかのように、外資系投資銀行、国際交流NGO、開発NGO、そして現職へと歩みを進めていらっしゃいます。ご自身の興味関心を軸に、専門性を高めながらキャリアを積んでいるように見える森下さんですが、「キャリア」というふうに捉えていない、とおっしゃいます。
*地球環境戦略研究機関(IGES)より出向。IGESのファイナンスタスクフォース・プログラムマネージャーを兼任
ー 気候変動対策のための資金を、必要な場所に、早く。
まずは、Climate Bonds Initiativeが、気候変動問題にどのようにアプローチしているか教えてください。
Climate Bonds Initiative(CBI)は、気候変動対策のために資金動員を促すことをミッションとしている国際NGOです。約25カ国で活動していて、世界各地に120名ほどの職員がいます。
気候変動の緩和と適応には、世界で年間5兆ドルの資金が必要とされています。資金自体はすでに存在するので、それが必要なところに流れるようにすることが必要です。
そのためにCBIは、グリーンファイナンス、特にグリーンボンドに関する市場動向の調査・分析や、「グリーン」の基準となるタクソノミーの策定とそれに基づいた認証制度の運用、そして関連する政策の調査という主に3つの活動を柱にしています。「タクソノミー」とは、「分類」という意味ですが、グリーンな経済活動のカタログというイメージが近いと思います。
CBIは、独自の産業別タクソノミーを持っていて、EUのタクソノミー策定にも関与してきました。グリーンボンドとは、グリーンな資産や経済活動のための資金を調達するための債券ですが、何をもって「グリーン」と言えるのか?という基準を作ることは重要です。パリ協定の目標を達成するためには迅速にそして大胆に気候変動対策を講じる必要があります。そのために必要な投資を回すべき技術や経済活動を具体的に特定し、提示するタクソノミーは有用なツールだと考えます。
ただこうしたデータやツール等のリソースを持っているだけでは変化は起こらないので、これらをツールとして活用しながら、主要なステークホルダーに対するエンゲージメントもしています。
CBIが働きかけるステークホルダーは、どのような人・組織ですか?
まず重要なステークホルダーは、機関投資家です。資金の出し手である機関投資家がグリーンな投資を望めば、そういったところにお金が流れますし、投資先の企業に対して気候変動リスクに対応してほしいと伝えれば、企業も動くようになります。機関投資家や銀行を含めた金融機関、経済の実体を担う企業、そして政策を担う政府、という3つのステークホルダーグループに働きかけています。
機関投資家には、ミーティングやカンファレンスでグリーンボンド市場の動向やグリーンボンド評価の方法に関して情報提供したり、グリーンボンドを活用した資金調達に関心を持つ企業には、グリーンボンドの国際基準や投資家動向についてブリーフしたり、政府には、政策づくりにおける各種委員会等への参加や個別のインフォーマルな意見交換を通して働きかけを行ったりします。
25もの国で活動する国際NGOですが、どのように戦略を策定して活動しているのでしょうか?日本での活動と併せて教えてください。
各国にカントリーヘッドがいて、CBIのミッションや基本的な考え方を元に、その国に適したアプローチや活動方針を決め、舵取りをします。CBIが持っているリソースの中で、その国では、どの引き出しから何を出せば一番効果的かを考え、国ごとに戦略に落とし込んでいくイメージです。
日本では、私がジャパン・プログラム・マネージャーとしてプログラムを始めたのは1年ほど前ですが、その前から、CBIの代表ショーン・キドニーが定期的に来日し、環境省のグリーンボンドガイドラインの策定プロセス等に関わっていた経緯があります。
現在の日本プログラムでは、グリーンボンドに関する活動も継続しながら、日本で活発化しているトランジションファイナンスについての活動を第一優先にしています。
日本の産業構造を考えても、多排出産業をどうやってトランジションしていくかは、非常に大切です。多排出だから鉄鋼を無くせばいい、という話にはなりませんよね。日本では、経済産業省が中心となって、産業界や金融機関と緊密に協力しながら、トランジションファイナンスに関する取り組みを活発に行ってきています。ここでもグリーン同様、「トランジション」と言える資産や経済活動について、企業そして金融機関といった市場関係者の間で、共通の理解が醸成されていくことが重要です。
世界でも「トランジション」の重要性や必要性は認識されるようになってきました。一方で、そのトランジションが具体的にどのような活動を指すのか、つまりどのような活動に資金を動員すべきかについては、いろいろな考え方やアプローチが提示され始めたという状況です。日本が進めるトランジションへのアプローチが、良いものとなり、世界にも広がることは、日本にとっても世界にとっても意味があることだと思いますので、可能な限りの情報提供やサポートをしていくということが大切だと考えています。
トランジションファイナンスの定義を優先するという戦略の中で、具体的にどのような活動をされているのですか?
日本のチームは、IGESから週2日出向している私と、プログラムアナリスト、そしてポリシーアナリストの3名という小さなチームです。
日本では、政策形成プロセスへのインプットを重視しているので、ハイレベルな活動を中心に据えています。今年は、代表のショーン・キドニーが、2〜3ヶ月に1度のペースで来日し、その間にステークホルダーとの意見交換会やクローズドのミーティングなどを中心的に行なっています。それを戦略の中心にしながら、来日のタイミング等で発表するレポートを作成したり、実務者向けのトレーニングプログラムを実施したり、より広い対象に向けてのウェビナーを開催したりしています。こうした各種活動は、CBI内でマーケット情報を追っているチーム、認証制度を運用しているチーム、トレーニングプログラムを実施しているチーム等と連携しながら行います。
日本のスタッフの主要な業務は、日本における活動内容の策定と実施の指揮です。その主な内容は、テクニカルなレポートや政策提言の日本語での発信です。CBIが持っている基準や視点は主にグローバルなものなのですが、それを日本の関係者に届けるにあたっては、日本の政策や産業構造の文脈の中で語ることが重要だと考えています。よって、日本の政策や市場動向をフォローし、CBI内に届ける役割も担いますし、CBIとして日本で発信する内容を日本の文脈に引き寄せた、もしくは踏まえた内容にするのも日本のスタッフの重要な役割です。
ー「キャリア」という捉え方はしていない。自分がありたい姿を実現するために、やりたいことをやっている
森下さんは、キャリアを外資系投資銀行からスタートされていますよね。現在のような非営利の業界に転職されたきっかけについて教えてください。
もともと大学では、法学部で経済法分野を専攻し、世界貿易機関(WTO)の法律を学んでいました。当時は、WTOはグローバルな水準でルールメイキングしている素晴らしい国際機関だ、という観点で語られることが多かったのですが、一方で、反グローバリズムも台頭してきている時期でした。実際はどうなんだろう?自由貿易で本当にみんなが豊かになるの?そんな疑問があったんです。
その時から、お金や経済は一番大事ではないけど、なくてはならないもの。自由な市場も競争もあってしかるべきだけど公正なルールの下で行うことが必要だと、漠然と思っていました。だからお金の流れや金融について理解したいと思って、投資銀行に就職することにしたんです。
とはいえ、そこでは日々の業務と関心事項がやっぱり合致しなかったんですよね。最初は3年頑張ろうかと思っていたんですが、人生は短いし、子どもを産んだり家族を持ったりすることを考えると、自由に動ける時間も長くはないかもしれないと思って、2年で退職しました。
そして、国際交流NGOピースボートという船旅を企画している団体にボランティア通訳として関わったことをきっかけに、ピースボートの船や寄港地での社会課題・環境問題についての学習プログラムを企画するスタッフとして在籍することになりました。
投資銀行からNGOへの転職は、大きな変化だったのではないですか?
周りからは、「なんでそんなに極端に振れるんだ」というようなことを言われたりもしました。でも、自分の中では極端に振れているつもりはなかったんですよね。外から見ると大きな変化に見えたかもしれませんが、自分が学びたいこと、知りたいこと、やってみたいことが自分の中にあったので、それに最適な場所を探していたような感じです。
ピースボートでは、5年ほど、平和や人権、核問題、環境問題など様々なテーマのプログラムを開発しましたが、やはり一番関心が強い開発分野での専門性を追求していきたいと思うようになり、国際協力NGOオックスファム・ジャパンに転職しました。「援助」のあり方というよりも、そうした援助が必要となる「貧困」や「格差」の原因となっている仕組みや政策に興味があったので、政策提言の分野で活動しました。
その後は、政策提言をNGOとはまた異なるアプローチで試してみたいという気持ちもあったので、オックスファム・ジャパンが日本での活動を終えることになったタイミングで、ご縁があったIGESに移ることになりました。
企業、非営利と区別をつけることなく、ご自身が持っていた「フェアな経済」という軸を元に、活躍の場を変えながらキャリアを進めていらっしゃったんですね。
現在では、もともと土台としてあった金融の経験とサプライチェーンの人権問題や気候変動への適応などの開発業界で取り組んできた「サステナビリティ」課題の交差する部分に携わっています。
私自身、あまり「キャリア」という捉え方をしてきていないんですよね。仕事だけではなく、家族や子どものこと、趣味も含めて、自分がありたい姿を実現するために、やりたいことをやってきてる、という感じです。
自分の人生に責任を取れるのは自分しかいないじゃないですか。人生一度きりなので、やってみたいと思ったことはやったほうがいいんじゃないかな、と思っています。
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