【Meet KSI Vol.6】気候変動をビジネスのオポチュニティとして企業を巻き込む KSI理事・黒崎美穂さん(Energy Impact Partners バイス・プレジデント)
サステナビリティスペシャリストの育成をめざす「鎌倉サステナビリティ研究所(KSI)」のメンバーのこれまでのキャリアや、気候危機をはじめとした環境問題に関わる思い・課題を聞いていきます。今回は、15年以上気候変動とESG分野のスペシャリストとしてご活躍され、現在はEnergy Impact Partner のバイス・プレジデントを務める傍ら、KSIの理事も担う黒崎美穂さんのストーリーをお届けします。
こんにちは、鎌倉サステナビリティ研究所(KSI)で理事をしています、黒崎美穂です。
KSIが開催した気候変動に関するウェビナーにスピーカーとして招待されたことをきっかけにKSIと出会い、2021年末から理事を務めています。
気候変動に必要なイノベーションとコラボレーション
本業では、Energy Impact Partners(EIP)という会社で働いています。EIPは、気候変動問題解決に役立つ技術に投資をするベンチャーキャピタルです。気候変動に長く関わっていますが、この仕事は特に2つよい面があると思っています。1つは、新しい技術に投資をすることでイノベーションにつながるということ、もう1つは、技術を持ったスタートアップと脱炭素を推進する大企業をつなぎ、コラボレーションを推進する役割も担っていることです。
技術は、誰かが使うことで初めて役に立ちます。お金を預かって投資し、投資したスタートアップの技術が大企業の脱炭素に活かされるようにするというのが、この会社でやっていることです。
私の役割は、投資したスタートアップの技術を企業に採用してもらえるように、企業と関係性をを築いて、企業がどんな脱炭素戦略を持っていてどこに苦労しているのかを把握した上で、そこに活かせる技術を持ったスタートアップを紹介し実際に技術を使ってもらう、ということです。
いま私たちは、このままでは1.5度目標を達成できない、というすごく難しい状況にいると思います。今まで2040年までにやればよいと思っていたことをもっと前倒しでやらなければいけない。そのためには、イノベーションがもっともっと必要なので、多くのイノベーションを作り出しているスタートアップの力は大事だなと感じています。
リスクよりオポチュニティで企業を巻き込む
私自身の仕事に対する「テーマ」を挙げるとしたら、企業に対して、脱炭素が会社の収益に繋げられる面白いオポチュニティ(機会)だと伝えることです。
EIPに移る前はリサーチの仕事がメインでした。リサーチは、世の中の動きを調査して、誰がどのような影響を受けるからこうしたほうがいい、という分析をする仕事です。これをやらないと排出量が増えてしまいますよ、こんな恐ろしいことが起きてしまいますよ、とリスク面の話をすることがどうしても多くなります。それで政策や企業に影響を与えられるようにという思いでリサーチに取り組んでいたのですが、そこで感じたのは、いくら政策を議論しても企業が動かないと気候変動対策が進まない、ということでした。
EIPはアメリカが本社の会社ですが、アメリカにはイノベーションに対して前向きな企業が多く、ものすごく先を行っているなと感じることがあります。インフレ抑制法(IRA)によって補助金の対象になっているセクターのスタートアップが勢いづき、そのようなスタートアップの技術を採用しようという企業も増え、好循環が生まれています。
日本をはじめとしたアジアの国々は、一足飛びにそこにはいけませんが、新しい技術を採用したいというアジアの企業からお問い合わせをいただいたり、社内ベンチャーキャピタルを立ち上げるというお話を伺ったりして、アジア太平洋地域にも好循環の流れが来ていると感じています。
ESG業界で15年 – 最初はインターンから
ESGの業界に入ったのは、本当に偶然です。入り口は、イギリスの大学院で環境ビジネスを勉強していた時に、投資に伴う環境リスクを分析する調査会社であるTrucostでインターンをしたことでした。
そこから15年間、ほぼずっとESGをやっていることになります。インターンから社員になって、その後アジアで仕事がしたくて日本に帰国し、ブルームバーグに応募しました。金融業界全体に対して影響を与えられる企業なので、金融業界全体がESG投資をしてくれたらなんていい世界になるだろうと思ったんです。ESG分析プラットフォームの立ち上げに携わった後、気候変動に関するリサーチのチームに異動しました。
その後シンガポールに引っ越すタイミングでブルームバーグを退職し、ブルームバーグの投資チームの同僚が、EIPのCEOがシンガポールに来るから会ってみて、と紹介してくれたことをきっかけに、今の仕事に出会いました。
非営利セクターと企業の連携が新たな機会を生む
EIP以外にも、金融庁のカーボンクレジットに関する検討会*1の委員として、ESGスペシャリストの視点でインプットしたり、非営利セクターでもKSIの理事の他、再エネ100%を目指す企業によるイニシアティブであるRE100のアドバイザー、地球環境戦略研究機関(IGES)のフェローとして日本気候リーダーズパートナーシップ(JCLP)のサポートをさせてもらってます。
非営利セクターでは、パッションが強い人が多くて、前に進もうという行動力を感じます。
特に近年は、非営利セクターと企業の連携にチャンスがあると思っています。数年前までは、企業の中でもNGOに対してアレルギーがあったり、怖いというイメージで捉えられていたのでないかと思うのですが、非営利セクターの声をしっかり聞きたいという企業や金融機関が出てきているのは大きな変化だと思います。国内の視点だけに立ち、業界内で話し合うだけでは、なかなかコンフォート・ゾーンの中からの意見しか吸い上げられません。非営利セクターを、自社だけでは届かない情報、違う視点や考えを持っているステークホルダーと見なし、意見を取り入れようとする企業がこの何年かで増えてきているのではないかなと思います。
*1 金融庁「カーボン・クレジット取引に関する金融インフラのあり方等に係る検討会」
気候変動対策に「スピード」と「タレント」を
私がKSIを好きなところは、サステナビリティの業界で”やりたい人”と”市場のニーズ”を繋ぐ橋渡しをしているところです。
ESGの人材はとにかく足りません。私が住んでいるシンガポールでもESG人材が足りていないということで、外国人人材を集めるためにESGの経験がある人は重要な人材と位置付け、VISA発行の際のポイントを高くするなどしているほどです。
日本にもシンガポールのように海外からそういった人材が働きにくるかというと、言語の問題もあってやはり難しい。だからこそ人を育てる、若い世代を育てるということが重要になってくると思います。KSIがトレーニングやウェビナーという形でそこに貢献していること、そして、Hoopus.を通して非営利セクターにも人材を繋ぎ、そこでインパクトを出していくというのは、とてもよい循環だと思っています。
気候変動対策には、「スピード」と「タレント」が必要だと思います。これを読んでくれているあなたが今その領域でのお仕事をされていないとしたら、みなさんが持っているスキル、みなさんの力は必要とされていると思っています。
気候変動対策はセクターの垣根がなく、全てのセクターで取り組みが必要です。今みなさんがいるセクターも含めて機会はたくさんありますし、キャリア形成について様々なサポートを得られる時代になっていると思います。ぜひ、想いを持つみなさんに、気候変動対策につながるキャリアを目指していっていただきたいと思います。