【PICK UP INTERVIEW vol.15】自分のスキルと経験で気候変動にどう貢献できるか 「目的意識」で紡いできたキャリアパス ー Market Forces渡辺瑛莉さん

Hoopus.(フーパス)は、鎌倉サステナビリティ研究所(KSI.)が運営する、サステナビリティと気候変動問題の解決に特化した求人サービスです。PICK UP INTERVIEWでは、気候変動解決に関わるお仕事情報をピックアップ。それぞれの団体で働く人々の熱い想いや職場の雰囲気をお伝えします。

今回インタビューしたのは、世の中の「お金の流れ」に着目して気候変動に取り組むMarket Forces(マーケット・フォース)でエネルギー金融キャンペーナーとして活躍する渡辺瑛莉(わたなべ・えり)さんです。大学院卒業後、環境問題や人権問題に取り組むNGOでキャリアをスタートし、複数の非営利団体でスキルと経験を積んでいます。非営利セクターで金融と気候変動をテーマにプロフェッショナルとして成長してきた渡辺さんに、このセクターだからこそ得られる成長機会や面白さ、キャリアパスの指針について伺いました。

Market Forces渡辺瑛莉さん

ー「お金の流れ」から気候変動のゆくえを変える

Market Forcesはどのように気候変動に取り組んでいるのですか?

Market Forcesはファイナンス、つまり世の中の「お金の流れ」に着目して、気候変動に取り組む団体です。お金が環境を破壊する事業ではなくて、環境に良い影響をもたらす事業に流れるように働きかけを行っています。

特に注力しているのが、石炭、石油、化石ガス(天然ガス)などの化石燃料セクターです。このセクターは温室効果ガスの一番の排出源となっていっていますし、パリ協定の1.5℃目標に整合するには、今後はフェイズアウト、段階的に廃止していかなければなりません。

お金の流れが気候変動にどのように影響するか、改めて教えてください。

様々な金融機関が事業に投資や融資をしていますが、わかりやすいのはみなさんにも身近な銀行です。銀行は、みなさんが預けたお金を事業や企業に投融資して、利息などのリターンをもらってお金を増やしています。すると、みなさんが預けたお金が廻りまわって、例えば液化天然ガス(LNG)の開発事業といった世界の脱炭素への流れに反する事業に流れる、ということも起きます。

団体名のMarket Forces、マーケット・フォースは、「神の見えざる手」というような市場原理を指す経済学の言葉ですが、元を正せば、人々が預金をしたり、商品を購入したり、年金などにお金を積み立てたり…といったお金の集積が市場の力を生んでいるので、マーケット・フォースとは人々が持っている力を意味する言葉でもあります。団体名には、「その力を持続可能な未来を実現するために使う」という思いが込められています。

そのため、お金を出している人々とともに、銀行や年金基金に対して、化石燃料事業ではなく再エネなどの気候変動課題のソリューション(気候ソリューション)となる事業にお金を振り向けるように働きかけています。

Market Forces
キャンペーンの一環で、銀行にメッセージを届けるアクションを行った ©︎350.org Japan

ただ、貸し手である金融機関は、借り手である企業にニーズがあるからお金を貸すわけなので、銀行や年金基金だけでなく、化石燃料のバリューチェーンにいる、電力や化石燃料採掘、LNGの資源開発や輸入を行う商社などの企業にも働きかけを行います。そうした企業の多くはカーボンニュートラルやネットゼロを宣言しているので、歩みを加速してもらうためのキャンペーンを展開したり、化石燃料事業を今後も続けていくことが環境面でも経済面でも持続可能ではないということを伝えたりします。

金融機関の気候方針には、どのような課題があるのでしょうか?

まず前提として、日本のメガバンクはまだ、化石燃料セクターに対して一律に投融資を行わないという方針を掲げていません。石炭に関しては、新規事業や既存事業の拡張には投融資しないという方針はあるのですが、抜け穴があります。例えば、プロジェクトではなく企業に対する一般目的融資(コーポレートファイナンス)であれば、その企業が石炭開発をしていても投融資することが可能です。資金使徒が石炭開発事業ではない場合、その企業の運営のために使うことのできる一般目的融資まで制限するべきではないという立場を取っているわけですが、お金に色はないため、海外では一般目的融資も制限する銀行が増えています。

日本のメガバンクはいずれも2050年までのカーボンニュートラル宣言を発表していますので、化石燃料セクターの投融資に関してパリ協定に整合する方針や目標の設定をするということが、金融機関へのMarket Forcesの要望です。

日本のメガバンクは世界的にみても特に化石燃料への投融資が多いですよね。

そうですね。日本の3つのメガバンクは、化石燃料セクターへの投融資で世界の銀行のTOP10に入っています*1。化石燃料セクターに対する投融資では、アメリカと日本の銀行が上位を占めている状況なのですが、日本の銀行は近年ランキングを上げてきています。そもそも日本の三メガバンクは世界の中でも規模が大きく、例えばオーストラリアにも四大銀行がありますが、日本の三メガバンクは桁違いの規模です。

*1 『化石燃料ファイナンス報告書2024〜気候カオスをもたらす銀行業務〜(原題:Banking on Climate Chaos)』

Market Forcesは、オーストラリアで始まった団体ですが、日本も含めたアジア地域に注目して活動しています。日本はオーストラリアの石炭やLNGの主要な輸出先になっていて、さらに日本企業は東南アジアで多くの化石燃料の新規プロジェクト開発に関わっています。日本は脱炭素に向けて非常に重要なアクターです。それは裏を返せば今は「問題がある」ということでもあります。

金融機関の方針に影響を与えていくために、Market Forcesはどのようなアプローチをとっているのですか?

まずは、それぞれの銀行と定期的に対話・エンゲージメントを行い、こういった方針改定が必要ではないかと提言したり、懸念があるプロジェクトに関してどのようにリスク管理をするのか問題提起したり、海外の水準に近づけるにはどうしたらいいか意見交換をしたりします。

近年は株主提案という手法も取っています。株主提案は、Market Forcesが一株主として企業に対して議案を提出し、年次株主総会で他の株主にその提案に投票いただくことで、改善が必要な部分を株主の要望として可視化するアプローチです。長期的な企業価値を向上させるために気候変動対策やリスク管理の強化が必要だということを、株主の声を通して取締役や経営層に訴えることができます。

また、こうした働きかけの根拠となる調査も行っています。Market Forcesにはリサーチチームがいるので、プロジェクトごとに独自の調査を行うこともありますし、また、他の国際NGOの共同調査(例えば、世界の金融機関の化石燃料セクターへの投融資を毎年調査しているBOCCなど)なども活用しています。

ー 気候変動や人権のために、自分のスキルを使って何ができるか

渡辺さんはキャンペーナーという役職ですが、どのような役割を担当されているのですか?

キャンペーナーの仕事は、銀行がパリ協定に整合する投融資活動をするようになるという一番のゴールに向けて、課題を洗い出し、目標を設定し、目標を達成するまでの道筋を考えて、実行をリードしていきます。どのようなステークホルダーを巻き込むか?何をテコに働きかけていくか?など、戦略を考えていくことが必要です。

Market Forces以前にも、NGOでキャンペーナーとしての経験を積んできていますよね。

キャンペーナーという肩書きで、10年以上やってきました。最初は大学院在学中に人権系のNGOで非常勤としてお手伝いを始めたのですが、その時お付き合いのあった国際環境NGOのFoE Japanでフルタイムのキャンペーナーを募集しているのを知って応募し、採用していただきました。当時は開発金融と環境プログラムのキャンペーナーとして、国際協力銀行(JBIC)や国際協力機構(JICA)などの公的金融の環境影響を最小化することを目指すプログラムに携わりました。

その後2011年の福島第一原子力発電所事故をきっかけに原発キャンペーンを立ち上げ、国際的に見ると放射線量が高いにもかかわらず当時政府からの補償が一切なかった、いわゆる「自主避難区域」の方々に対する補償の法整備を働きかけるキャンペーンを担当しました。

合計6年経験させていただいた後FoEを卒業し、家族の事情で南米にしばらく滞在し、帰国後にちょうど募集が出ていた国際環境NGO350.org Japanの気候変動キャンペーナーに応募しました。当時は環境に関することならどんな仕事でも挑戦したいと思っていましたが、キャンペーナーとしての自分のスキルが活かせる職種で転職することを選びました。

国際環境NGO350.orgでは日本の民間銀行のダイベストメントキャンペーンを担当していたので、そこで金融の知識もつけることができました。それから今は、Market Forcesに場所を移して活動しています。

学生の頃から将来は非営利セクターで働きたいと考えていたんですか?

学生の頃は国際協力に関心がありました。東南アジアが特に好きで、バックパックでよく旅して周り、途上国支援の仕事に興味があったんです。ところが大学で勉強するうちに、国際協力の名の下に環境破壊や人権侵害が起きているといった調査に触れ、支援どころか日本が迷惑をかけてしまっている実態があることを知り、日本で生まれた私には、東南アジアの人々との架け橋になってできることがあるんじゃないかと思うようになりました。

国際協力に関わるなら主にNGO、国家機関、国際機関の3つパターンがありますが、様々な人の意見を聞くうちに、NGOが一番現場の人々に寄り添っていそうだという感覚を得ました。当時大学からNGOにすぐに就職するのはほぼ不可能と言われていて、社会人経験を積んでからNGOに入るつもりだったのですが、たまたま非常勤の有給スタッフとして働く機会をいただき、NGOからキャリアをスタートすることになりました。

国際環境NGO350.orgの気候変動キャンペーナーのとき、スタッフやボランティアメンバーとイベントへの出展した

気候変動の非営利セクターで着実に専門性を高めていますよね。明確なキャリアビジョンをお持ちなのでしょうか?

何かビジョンがあってそれに向けて着々と…というよりは、目の前のことを一生懸命にやって、ある程度区切りがついたら次に行こう、という感じでやってきました。

こういうキャリアを築きたいからというよりは、環境を守る、気温上昇を抑制する、先住民や地元コミュニティの方々の暮らしを守る、という目的意識を持って、自分のスキルと経験で何ができるか?という視点で選んできたような気がします。

とりわけ気候変動・非営利セクターの特徴かもしれないですが、転職はすごく頻繁なので、不安はないですね。キャンペーナーとして、機動的に動く姿勢や、基本的な調査・情報収集・分析力、コミュニケーションや表現力など、ベースのスキルは次のところでも生かされてきます。

Market Forcesのアジアチームのミーティングにて。国際的なメンバーが集まる。

「職場」としての気候変動の非営利セクターは、人をどのように成長させてくれる場だと思いますか?

自分の周りは優秀な人ばかりだなといつも思っていて、非営利が色々スキルを身につけられる、成長の場になっているんじゃないかなと思います。

人が少ないNGOでは、少人数でどうにかしなければならないことも多いので、大きな組織ならおそらく入社して数年経ってから任されるであろうということを、1年目にいきなりやったりします。振り返ると、ものすごいスピードで成長させてもらったんじゃないかなと思いますね。気候変動の活動は日々進化しているので、新しいことをどんどん吸収して実行に移していく力も求められますし、リソースの制限がある分、成果につながるのであればどんな発想も応援してもらえるという点も、面白いんじゃないかなと思います。

気候変動は国やセクターを超えたコラボレーションが必須なので、色々な国や地域の人、色々な立場の人と協業します。政府機関や金融機関、事業会社、メディア、汚染事業と戦う先住民やコミュニティの方々、孫のために声を上げるおじいちゃんおばあちゃんまで…様々な経験とバックグラウンドを持つ人と出会い、その人たちを巻き込んでいくことを学ばなければならないので、非常にダイナミックです。課題が大きい分、大変なことも多いですが、想いを同じくする世界中の仲間たちと深く協業することが日々の活動の糧になっています。

理想の世界に向けて活動を拡げながら、成長できる。私はすごい幸せな仕事をしているなといつも思いますね。非営利セクターにいろいろな人に入ってきてもらって、どんどん強くなっていけたらいいなと思います。


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