【Meet KSI vol.2】
”丸の内OL”時代に感じた焦り「このまま流されてしまう」
サステナブルファイナンスリサーチ担当 佐藤美春
サステナビリティスペシャリストの育成をめざす「鎌倉サステナビリティ 研究所(KSI)」のメンバーのこれまでのキャリアや、気候危機をはじめとした環境問題に関わる思い・課題を聞いていきます。金融企業での経験を生かしてサステナブルファイナンスのリサーチにも取り組む佐藤美春のストーリーをお届けします。
こんにちは、鎌倉サステナビリティ 研究所(以下KSI) の佐藤美春です。私はKSIで、サステナブルファイナンスに関するリサーチプロジェクトに携わっています。
前回のメンバー紹介記事に登場した佐藤李子さん同様、私も2つの仕事を並行する複業という形で、KSIに関わっています。
防災に特化した国際協力NGOのバングラデシュ事業のプロジェクトマネージメントと、KSIでの仕事を半分ずつ、しかもミャンマーに拠点を持って、両方とも完全リモートワークに挑戦しています。
国際協力の活動に奔走した学生から“丸の内OL”へ
中学生のころから国際協力に関心があり、大学では国際協力を専攻しました。
仲間とバングラデシュの非正規学校を支援する学生団体を立ち上げて活動するなど、活発に動いた青春でした。
卒業後はインドのデリー大学大学院に留学し、ソーシャルワークを学びました。週3でフィールドワークがあり、理論と実践を学べる刺激的な経験でした。言語面、生活面では非常に苦労しましたが、インドで怒涛の2年間を過ごし、ひとまわり強くなったと思います。
そのまま現地で就職するのは給与面でも厳しく、帰国して就活をすることとなります。
エージェントを使って就活し、数社と面接しましたが、最終的にオフィスと社員の方々の印象がとても良かった外資金融情報会社に就職することにしました。
デリーのスラムをうろついていたのに”丸の内OL”になり、そのギャップに少し戸惑いながらも、華やかさを楽しみました。
東京オフィスで1年間勤務し、その後ムンバイオフィスにリロケーションするチャンスを得て、2年間ムンバイで勤務しました。インド人相手の営業はタフでしたが、楽しかったです。その後東京に戻り、同社には約6年在籍しました。
「動かなくてはこのまま流されてしまう。やりたいことをやらなくては」
気が付くと30歳を過ぎていて、いま動かなければこのまま流されてしまう、やりたいことをやらなくては、と焦りだしました。
会社も同僚も、そして給料も(笑)好きでしたが、国際協力の仕事への転職を決めました。
現場に行きたくて現地駐在のポジションを探していたところ、現在関わっているNGOに出会い、バングラデシュ事業担当として、2016年から4年間現地に駐在して活動しました。
その後、パートナーのミャンマー転勤が決まり、同行するためにフィールドを離れましたが、リモートワークのプロジェクトマネージャーという形で、携わり続けています。
国際協力と気候変動はつながっている
バングラデシュで防災の仕事をするなかで、サイクロンで大きな被害が出たり、季節外れの大雨で都市機能がストップしたり、人的被害がでたりするのを目の当たりにしてきました。また、川の浸食等により家が流され住む土地がなくなって、ダッカなど都市に移住する人々が大勢いて、すでに人口過密のダッカは拡大する一方。そうした人々の多くはスラムに住むしかなく、スラムも拡大しています。気候変動、貧困、教育、ジェンダー、安全…。すべてはつながっています。
「気候変動とかなんだか難しそう」、「文系の私からは遠そう」など変なステレオタイプを持っていたのですが、こうした事実を目の当たりにして「これはまずい」と気候変動が自分ごとになりました。
日本でも豪雨災害が相次いでいますが、気象災害は増加しています。正常性バイアスといって、災害が来ても自分は大丈夫とみんな思い込んでいるけど、大丈夫じゃない。私は災害によって家族や友人を失うのがとても怖い。これも気候変動問題に取り組む動機になっています。
そんな時に、日本でサステナビリティのスペシャリストの育成を目指すKSIと出会い、国際協力NGOとKSIとのダブルワークが始まりました。
最初は不安だったダブルワーク。始まってしまえば「できるもの」
ダブルワークを始める前は、どんな感じなんだろうと少し不安もありましたが、できるもんだなというのが正直な感想です。
良い点は、頭の切り替えができること。
私は仕事によってパソコンも分けていて、ひとつの方の仕事をしている日はそちらに集中し、気になる件があってももう一つのパソコンは開かないようにしています。また、「明日はもう一つの仕事の日だから」と思うと、その日できることを最大限やるために集中力や効率性があがります。
そしてシンプルに、2つの団体それぞれに仲間がいてネットワークが広がるというのはなんとも素晴らしいことです。
チャレンジングな点は、「フルタイムだったらもっとできるのに!」とどちらの仕事についても思ってしまうこと。自分のキャパを知ること、業務量と時間のバランスを取ることが大事だと学びました。
意思のある人たちと出会える仕事
気候変動の課題解決に取り組む上でのやりがいは、意志ある人たちと出会えることです。
国境や海を超えて世界中の人たちと共通の価値を持ち、同じ目標に向かって活動しているわけで、地球の一員なんだと実感することができます。そして、自分の暮らしがどう成り立っているのか、どういうシステムの上に生きているのか、考え、関心を高める機会に満ちています。
逆に大変なことと言えば、どの分野でもそうかもしれませんが、全く違う意見や強い批判があること。例えば、気候変動が人間の活動に起因するものだということを否定する人たちもいるし、石炭火力をサポートする考えもあります。その中で情報や意見を発信するのって時にすごく勇気が要ることなんじゃないかと思います。
また、いま取り組んでいるサステナブルファイナンスのリサーチのプロジェクトを通して、環境課題の解決に向けた難しさも実感しています。多くの企業が脱炭素やサステナビリティなど”グリーンな経済活動”を掲げるようになった一方で、その定義がないために、企業の取り組みが真にグリーンなのか判断が難しいことです。
判断に重要となるのが企業による情報開示ですが、公開されている情報はとても少なく、私たちのような市民が、企業のグリーン性を調べたり、グリーンウォッシュをモニタリングしたりするのはとても難しいです。これについては、来年発行予定のレポート*を読んでいただきたいです。
*現在KSIでの別プロジェクトとして日本のグリーンボンド市場の現状調査を行っており、2022年にレポート発行予定。
親が見せてくれた美しいものを残したい
去年10年ぶりに地元の新潟で冬を過ごしたんですが、晴れた朝の雪、枝に着く霧氷がとってもきれいで感動しました。
親が見せてくれた美しいものを、私も将来の子どもや孫に見せたいと強く思います。
気候変動への取り組みが緊急性を増す中で、KSIを通して、環境課題の解決のために活動している方や、これから自分の力や経験を活かしたいという方と出会えることは、希望に感じることです。これから公開予定の気候変動講座などを利用して、一歩踏み出す仲間が増えたら嬉しいです。