【PICK UP INTERVIEW vol.1】 科学的知見に基づいた情報を広め、気候変動対策を加速させる クライメートダイアログ 後藤歩さん

Hoopus.(フーパス)は、鎌倉サステナビリティ研究所が運営する、サステナビリティと気候変動問題の解決に特化した求人サービスです。PICK UP INTERVIEWでは、気候変動解決に関わるお仕事情報をピックアップ。それぞれの団体で働く人々の熱い想いや職場の雰囲気をお伝えします。

今回は、一般社団法人クライメート・ダイアログ代表の後藤歩(ごとうあゆみ)さんにお話をお聞きしました。政府系シンクタンクなど、様々な形で気候変動問題に関わってから、去年、気候変動の戦略コミュニケーションに特化した団体を立ち上げました。

※この記事は、2021年12月の取材をもとに2023年12月に一部編集を加えたものです。本文中にある肩書き・組織説明・制度内容などは最新のものと異なる場合がありますのでご了承ください。


一般社団法人クライメート・ダイアローグ 後藤歩さん

まずは、クライメート・ダイアログの気候変動問題へのアプローチについて教えてください

一般社団法人クライメート・ダイアログは、気候変動の緊急性と解決策について発信し、それをメディアや社会の議論の中心に据えることを目指している団体です。

気候変動は、「環境問題」という領域を超えて、私たちの社会・経済の安定を脅かす、重大な問題となっています。私たちは、情報の担い手であるメディアや、さまざまなレベルで意思決定をする人たちに対して、情報と文脈を提供する活動をしています。

例えば、異常気象と気候変動がどういう関係にあるのかなど、気候変動に関する最新の科学の知見や、気候変動がもたらす影響や起こりうる変化を、人々の健康だったり、農業・漁業や居住環境、インフラといった暮らしへの影響といった側面から、また経済や金融の観点や難民や食糧・水不足とも関連する安全保障の側面からなど様々な観点から、科学者や専門家、研究機関や国際機関、国内外のNGOなどと協力して、提供しています。

科学やファクトベースの情報を伝えて、現状を正しく理解してもらうことで、”今すぐに、抜本的な行動を取らなければならない”という、気候変動対策や脱炭素移行に必要とされる規模感やスピード感が理解・共有されることを目指しています。

具体的にはどのような活動をしていますか?

 例えば、メディアの方々に対してであれば、最新の動向とその背景に関する情報をお送りしたり、国内外の専門家や取材先を紹介したり、資料を送って直接電話で解説したり、寄稿文を書いてもらう人を提案したりします。それ以外にも、企業や経済団体、投資家や政府関係者に対しても、情報提供を行っています。

コミュニケーションの仕事には共通すると思いますが、情報を受け取る相手の立ち位置や、何が疑問なのか、日本の現状への理解や、どんな人の声だったら耳を傾けてもらえるかなどを踏まえて、ファクトに基づいた情報が発信されるように協力します。

最近では、IPCCの最新の報告書の発表、COP26や関連する政策変化など、国内外で気候変動に関心が高まるタイミングを掴んで、科学者や専門機関、国際機関や非営利組織などから出される新しい知見を広めるかたちで、情報を提供しています。

そうした活動を積み重ねてきたことで、だんだんと情報のハブ機能としての役割を果たせるようになってきたかなと感じています。何かしら聞いたら適切な情報がある場所、と頼って頂ける機会も増えてきました。

もちろん私たちの力だけではありませんが、気候変動に関する日本のメディアも徐々に論調が変わってきているなと、やりがいを感じています。

後藤さんは長年、気候変動問題に関わってきていらっしゃいますが、2020年にクライメート・ダイアログという新たな形で活動を始めたのはどうしてですか?

 日本には、コミュニケーションの専門家はいますし、気候変動の専門家もいるんですが、その両方を統合させたような機能を担うような機関はありませんでした。

日本では、海外に比べて気候変動に関する情報の量がまず非常に少なかったですし、内容についても、豪雨や洪水、熱波といった極端な気象現象から、企業による再生可能エネルギーの調達100%宣言や、投資家による化石燃料資産からの投資撤退といった動きまで、それぞれの”現象”を伝えるものが多いという印象でした。

情報量もさることながら、そもそもどうしてそのような現象が起きているのか?という科学を起点とする知見は、ほとんど伝わっていない状況だと感じていました。基礎的な知識や文脈の理解の欠如が、なかなか行動につながらないのではないか、という問題意識を深めてきました。

前職の政府系シンクタンクでは、主に企業の方々に対して、気候変動についての情報を提供したり、解説したりするような仕事をしていました。その中で、科学的ファクトに基づいたロジックと、その文脈の中でそれぞれの現象をお伝えすると、腹落ちされる。気候変動対策は緊急を要するもので、抜本的な対策が必要だと理解を深められる、という経験をしました。情報の伝え方でこんなにも違うんだ。情報の力ってすごいんだな、と思ったんです。

後藤歩さん

ただ、特定の人々の域を超えて、もっと社会全体の議論の中心に気候変動の緊急性を据えなければいけないと感じる機会が増えたことで、気候変動の戦略的なコミュニケーションに特化した団体を立ち上げることにつながりました。欧州やアメリカ、インドや中国、南米などでも、そういう活動をしているコミュニケーションの専門家がネットワークを作っていたことも、背中を押された背景としてあります。

クライメート・ダイアログでは、チームとしてどのように協力して働いていますか?

日本のチームは現在3人と少数ですが、クライメート・ダイアログはグローバルネットワークの日本代表というような位置付けでもあります。世界22カ国に約180人、気候変動の戦略コミュニケーションという同じ活動をしている仲間がいます。3人で何かをやっているというよりは、大きなネットワークの一員として活動しているという感じですね。

グローバルなネットワークのメンバーが集まった研修

「グローバルネットワークのメンバーには、気候変動とコミュニケーションの分野で活動を続けてきているプロフェッショナルが大勢います。また新たにデジタルを活用しての活動も広がってきています。大変な時に仲間がいるというのはすごく心強いです。同じ目的を共有する中で、過去の経験や課題、対応策やアイデアを相談することができます。日本での活動にも応用しています。

日本のチームでは毎週ミーティングをしています。また、グローバルネットワークとも2週間に一回、またテーマ別だったりデジタルに関してなど適宜ミーティングをして、その時々やもう少し先の動きを確認しつつ、計画を共有して連携をとっています。今のところは、大体の役割分担はありますが、基本的にはチーム全体で動いて、一緒に考えながら進めています。

一緒に活動するチームメンバーにはどのようなことを期待しますか?

 コミュニケーションの経験や、気候変動に関して深い専門知識がなくても、気候変動解決に関わりたいという強い気持ちが重要だと思っています。実際私もコミュニケーションの専門家ではなかったですし、もう一人のメンバーも、気候変動やコミュニケーションのバッググラウンドはありませんでした。 

気候変動に関する知識は、徐々に理解していってもらえると思っています。勉強できる書籍やリソースはありますし、グローバルで開催されるワークショップに参加して学んだりすることも可能です。

気候変動は進行しており社会経済の安定への脅威となってきている

「それよりも、自分でも新しいことを学ぼうとする主体性やリーダーシップ、臨機応変に対応できる力が重要になる仕事だと思います。新しい分野のスタートアップ企業に入る感じをイメージしてもらうといいかもしれません。そしてそこでは、”気候変動の問題をどうにかしたい”という強い気持ちが、やはりとても大事になってくると思っています。

そして、だいたい仕事の半分ぐらい英語を使うので、堪能である必要はないですが、英語で仕事をするのが苦にならないことも大切かもしれません。もちろん日本語も重要です。」

後藤さんのこれまでのキャリアについて教えてください。

 私は元々、学生時代から国際協力に関心があって、日米学生会議に参加したり、国際協力系のNGOなどでも活動をしたりしていたのですが、卒業後に政府系シンクタンクに就職して、たまたま気候変動分野の仕事に携わることになりました。

そこで勉強するうちに、「カーボン・バジェット(炭素予算)」、つまりは求められる対策のスピード感と規模感を知りました。地球の気温上昇は、過去からの累積的なCO2の排出量と比例することが科学的に示されています。ある一定程度に温暖化を抑えようとすれば、自ずと、人間の活動で排出できる二酸化炭素の上限が決まってきます。

人間は既にこれまでの活動でたくさんの二酸化炭素を出しているので、私たちが今のままの人間活動を続けていると、これから排出できる二酸化炭素の量(予算)が極めて少なくなってしまうということを知りました。解決するには、今すぐ早急に、抜本的な対策が必要だと言われる所以です。

そして、気候変動が進めば、水や食料問題、飢餓や貧困問題、健康被害、安全保障の問題など、既に存在する多くの問題を増幅させてしまう問題でもあります。

知れば知るほど、気候変動の問題は危機的で、もっと社会の重要課題として捉えれないといけない問題なのではないか?という思いを強くしました。

日本では今でも、「環境問題」や「エコ」、「一人ひとりができる範囲で」、として温暖化や気候変動の問題が扱われることが多いですよね。しかし、今すぐ行動を取らないといけないし、一人ひとりの行動を超えた社会全体としての取り組みが必要という状況なんだと思っています。

その認知が広まること、そして脱炭素社会への移行が加速することに、この活動を通して貢献していきたいと思っています。 

そのためにも、クライメート・ダイアログで一緒に活動してくれる人が是非増えてほしいなぁ、と強く思っています。


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