【PICK UP INTERVIEW vol.6】企業からNGOへエグゼクティブ転職 NGOのリーダーに求められるもの 国際環境NGO 350 Japan 横山隆美さん
Hoopus.(フーパス)は、鎌倉サステナビリティ研究所が運営する、サステナビリティと気候変動問題の解決に特化した求人サービスです。PICK UP INTERVIEWでは、気候変動解決に関わるお仕事情報をピックアップ。それぞれの団体で働く人々の熱い想いや職場の雰囲気をお伝えします。
国際環境NGO 350 Japan(スリーフィフティ・ジャパン)で、長年の金融機関での経営経験を活かし、銀行へのダイベストメントキャンペーンと、若いチームの組織運営をリードしてきた横山隆美さんが、2022年夏をもって退任されます。横山さんに、後任となる新しいリーダーに期待することや、350 Japanの特徴、活動内容について詳しく伺いました。自らが企業出身で、企業とNGOの人材交流を増やしたいと話す横山さんのメッセージは、企業からNGOへの転職を考えている方の背中も押してくれるはずです。
※この記事は、2022年月の取材をもとに2023年12月に一部編集を加えたものです。本文中にある肩書き・組織説明・制度内容などは最新のものと異なる場合がありますのでご了承ください。
まずは、350ジャパンについて教えてください。
350.orgは、2008年に米国の学生グループによって設立され世界181カ国で活動している国際環境団体で、化石燃料から脱却して100%自然エネルギーの公平で公正な社会を作ることを目指しています。
NGOのアプローチにもいろいろありますが、私たちは資金の流れを化石燃料から自然エネルギーへと変える「ダイベストメント」を起こすことで、この変化に貢献していきたいと思っています。しかもそれを草の根で、市民活動を通してやっていくということを大切にしています。
化石燃料の会社が、事業を展開するのにはお金が必要です。例えば石炭火力発電所を作って運営する時には、自社資金だけで行うことはほとんどなく、銀行などから融資を受けることがほとんどです。ですから、その資金を止めれば、新しい石炭火力発電所は建設できなくなります。資金の流れを止めることで、二酸化炭素を排出する事業をしづらくなるということが、ダイベストメントの意義です。
銀行からの資金の流れを変えるために、「ボトムアップ」と「トップダウン」という2つのアプローチから進めていきたいと私たちは考えています。
トップダウンというのは、私たちスタッフが、銀行と対話をしたり、株主提案をしたりといった直接的な働きかけをすることです。
私たちは、銀行の株主となって株主提案を出し、銀行が化石燃料の会社からダイベストメントすることを訴えていますが、株主提案を毎年続けることで、銀行の化石燃料に関する方針が年々改善されています。日本は横並びの風潮がある社会で、一つの銀行が方針を強化すると他も負けずに強化するということもあって、非常に影響が大きい活動だと思っています。
ボトムアップというのは、ボランティアのみなさんや他の団体のみなさんと一緒に、市民の力を集めて、銀行に化石燃料事業に投資して欲しくないですと、銀行に対して市民・生活者からプレッシャーを与えることです。今は、こういった仕組みを形成する市民活動の「エコシステム」を作ることを目指していて、住んでいる地域が近い仲間や同じ興味を持つグループが、スタッフが関わらなくても、独立してアクションを実行できるようにしようとしています。
350.orgは、なぜダイベストメントというアプローチをとっているのでしょう?
ダイベストメントは、団体のルーツでもあります。
15年ほど前、アメリカのある大学で学生たちが、大学の基金が化石燃料会社に投資されていることに気がついて、まずはそこから止めようと活動をはじめ、ダイベストすることに成功したのです。
ダイベストメントというのは、南アフリカのアパルトヘイトやタバコ産業に関しても行われて、反対運動を加速させるのに貢献したと言われています。気候変動問題に関しても、同じようにダイベストすることによって、化石燃料への反対運動と自然エネルギーへの移行の流れを加速させることができると考えています。
350ジャパンの働きかたについて教えてください。
350ジャパンは、現在パートタイムも含めて7人という小さな組織です。
全体で見れば、銀行への働きかけを行うキャンペーンなどの企画を行うチームと、気候変動や市民活動についてのトレーニングを提供して草の根の活動を盛り上げるオーガナイジングを行うチームが半々くらいです。
銀行と対話した内容は公にしませんが、キャンペーンの裏側ではとても多くの時間をコミュニケーションに使っています。例えば、株主提案を作って、投資家や銀行にレターを送ったり、記者会見をしたり、投資家・銀行と対話をしたりしています。
オーガナイジングでは、私たちがクルーと呼んでいるボランティアにトレーニングを実施しています。まずは気候変動について知識をつけて、銀行と二酸化炭素排出の関わりを学んでもらい、そこからアクションにつなげていきます。
7人の組織ですので、私が勝手に方針を決めるということはありません。戦略を立てる時も、前年の振り返りをして、話し合いをして、活動内容の優先順位をつけていきます。
私以外のスタッフはみんな若く、オープンなカルチャーで、和気あいあいと活動しています。気候変動に関わる活動は、ともすると深刻になってしまいますが、私たちは「ちょっとノリよくやる」というのを大切にしています。そういう部分がないと、活動が続かないと考えています。
長年金融機関の経営に携わってきた横山さんが、NGOの代表へ転身したきっかけを教えてください。
環境問題や社会問題には、学生時代から興味がありました。働き始めてからも仕事の傍らチャリティイベントを開催したりしていたのですが、忙しくなるとそういうこともできなくなってしまいました。
そしてあるとき、アメリカの同僚にこんなことを言われたのです。
「立派な人間になるためには3つの責任を果たさなければならない。仕事の責任・家族に対する責任・社会に対する責任だ」
仕事のことは一生懸命やっていたつもりですし、家のことは家族が評価することですが、まあまあやったと思っています。ところが社会的な責任は、何もできていないという負い目がありました。65歳で退職した時に、社会に対して還元できることがしたいと思いました。
その時、読んでいたナオミ・クラインの『これがすべてを変える』の中で、彼女が理事を務めている350.orgのことが書いてあって、どんな団体なんだろうと思って電話しました。そして面談を受けてボランティアとして受け入れてもらいました。
イベントサポートなどのボランティアをしていましたが、私は退職して時間があったので、もっと活動したいと思っていたところに、当時の日本の代表がアジア地域の役職へ異動することになり、代表のポジションに応募してみないかと声をかけてくれました。それで、試験と面接を受けて、着任することになりました。
それまで社長を務められていた企業と、数人のNGOでは、どんな違いを感じましたか?
5,000人の社員がいる組織では、社長として何かやって欲しいと思うことがあれば実行してくれる人がたくさんいますが、7人だと人員が限られていて、たくさんあるアイデアをどう絞って実行していくか考えなければなりません。
そして、外部環境の動きも激しく、当初は当団体のキャパシティの中で実行できると思っていたことが途中からオーバーフローするということが起きやすいです。会社では、何が何でもやるということもありますが、NGOでは働き方についても配慮が必要です。自分の組織で良い働き方ができなかったら、良い社会を作ることはできないからです。
NGOにはみなさん理念に賛同し、やりたいことがあって参加しているので、それを尊重しながら組織運営をするということも大切です。
350.orgのようなNGOのリーダーには、どのような素質が必要だと感じますか?
気候変動を解決する、より良い社会を作るという熱意を持って、この問題は解決できるんだという希望を与えながら活動してほしいですね。それがないとみんなついて来れなくなってしまいますから。
この分野では、アクションしてもすぐに結果が出るわけではないので、「バーンアウト」といって成果が出なくて疲弊し、活動を離れてしまうこともよくあります。リーダーがずっと希望を持って、それを伝えられるというのは大事だと思います。
それに、チームを作った経験と、NGOでの経験も重要になります。
金融の知識は後から得ることもできます。3年前に350ジャパンに入ったキャンペーナーは、当時はほとんど何も知りませんでしたが、今ではエキスパート、日本有数のファイナンシャルキャンペーナーです。グローバルチームが提供する研修もありますし、これまでに出してきた請願書やプレスリリースを読み込むことなどで、知識はついてくると思います。
横山さんご自身が、企業からNGOへとキャリアを進められましたが、今企業で働いていて、市民セクターの仕事に関心がある方へ、アドバイスをいただけますか?
NGOへの転職は、非常に良い経験になると思います。
企業は、なんだかんだ言っても利益を上げるための集団ですが、NGOは、良い社会を目指し、理念で動く組織です。これからは、企業とNGOの人材交流があるべきだと思います。私の前任者の元350ジャパンの代表は、今は銀行に転職しています。銀行が、NGOの代表だった人間を雇っているのです。これからもそういうことは起こると思っています。NGOで経験を積み、最終的にはまた企業に戻って貢献する、というサイクルができると思っています。
また、企業の外に出てみて思うのは、企業の社会はとても狭く、例えば保険業界では保険を中心に見る社会の中ですべてが回っていますが、NGOというのは扱っている問題が地球規模ですので、視野が広がります。
関心がある人には、ぜひ挑戦してほしいなと思います。
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