【Meet KSI vol.5】
「社会の役に立ちたい」という気持ちが原動力 / 額賀 佑佳さん

サステナビリティスペシャリストの育成をめざす「鎌倉サステナビリティ研究所(KSI)」のメンバーのこれまでのキャリアや、気候危機をはじめとした環境問題に関わる思い・課題を聞いていきます。今回は、フリーランスのESGコンサルタントとしてKSIをはじめ複数のパートナーやクライアントとお仕事をされている、額賀 佑佳(ぬかが ゆか)さんのストーリーをお届けします。


 こんにちは、額賀 佑佳です。

私は現在、KSIではサステナブルファイナンスのリサーチ業務の仕事を主にお手伝いさせていただいており、KSI以外ではフリーランスのコンサルタントとして特に投資家を意識した企業のESG情報開示を支援する仕事をしています。

額賀 佑佳(ぬかが ゆか)さん


メキシコでの体験が社会課題に取り組むきっかけに

中学生の時に家族で訪れたメキシコで目にしたストリートチルドレンの存在がずっと心の中で引っ掛かり続けていたことから、貧困問題の解決に貢献できるような仕事がしたいと大学ではフェアトレードの研究に取り組んでいました。フィールドワークで訪れたメキシコの最貧困地域で育てられたコーヒー豆を直接仕入れ、日本のカフェに展開していくというプロジェクトを立ち上げて、卒業後もそのまま起業しようかと悩みましたが、開発途上国における電力事業にも携わってみたいという思いがあり、またまずはサラリーマンとして社会に出てみようと考え、就職先として決まっていた電力会社に入社しました。     

個人営業部門に配属され、当時は電力自由化を目前に電力会社が一般住宅の電力シェア拡大に躍起となっていた時代だったので、個人宅を訪問してオール電化に切り替えるセールストークを延々とする毎日でした。そんな日々が本当に苦痛で、もっと社会に役立っている実感がもてる仕事がしたいと考えている時に、お金の流れを変えることで社会をより良くしていくSRI*という考えに出会い、SRIファンドを立ち上げて間もなかった資産運用会社に転職をしました。

*SRI = 社会的責任投資(Socially Responsible Investment) 

大学ゼミのフィールドワークで訪れたメキシコのコーヒー豆農園

当初は責任投資に関わる業務にはほとんど携わるチャンスがなかったのですが、入社から1年程してPRI*が発足したことで、徐々に社内外で責任投資に対する機運が高まり、会社の取り組みやSRIファンドについて国内外問わずお話をさせていただくことがとても増えました。会社としても責任投資の体制を手探りで構築していく立ち上げ期でしたので、海外のESG調査会社で研修をさせてもらったり、機関投資家にプロモーションをしに行ったり、チャレンジングで貴重な経験を数多くさせていただいたことは今の仕事をする上での土台になっていると思います。

*PRI = 責任投資原則(Principles for Responsible Investment)、機関投資家向けに国連より提唱された行動原則


そこから、今度は投資する側と投資される側の橋渡しをしてみたいという気持ちが大きくなり、ESGコンサルタントとしてその橋渡しに関わることができるシンクタンクに転職しました。この会社も、まさにESGコンサルティング業務を立ち上げようとしていた時期でしたので、コンサルティングサービスの開発からクライアント企業との交渉まで、全てのプロセスに責任をもって関わらせていただきました。

また、民間企業との仕事だけではなく、(カーボン)オフセット・クレジット制度を利用する中小企業の支援、子ども向け芸術文化事業の評価や社会起業家の制度調査など、官公庁から受託するプロジェクトにも色々と関わらせていただきました。官公庁案件は予算がギリギリに設定されていることが多いので、海外であっても国内のどんな辺ぴな場所にも単独で出張し、インタビューも議事録作成も何から何まで一人でやり切ることがほとんどでしたので、スキルも度胸も身につきました。

ただ、本当に出張が多かったので、子どもをもつ人生を考えた時に少しゆとりを持ちたいと思い、フリーランスとして独立することを決断しました。

社会企業家の制度調査で訪れたニューヨークにて

フリーランスになって心地よいバランスが取れるようになった

現在、フリーランスとして複数のクライアントから仕事をいただいていますが、サラリーマンとして働いていた頃から、バラバラのタイミングで進行する複数のプロジェクトや業務に関わることがほとんどでしたので、働き方として大きく変わったという実感はあまりありません。

ただ、フリーランスとして独立したタイミングがちょうど妊娠・出産・育児スタートと重なったので、パラレルワークと育児との両立においては色々と心がけるようにしています。

特に、一人で仕事をしていると何かあった時にバックアップしてくれる人がいるわけではないので、子どもの病気やコロナ禍以降は突然の休校やオンライン授業など不測の事態でクライアントに迷惑をかけることがないよう、受ける仕事の量とタイミングにはとにかく気をつけています。逆に言うと、自分の裁量でスケジュール調整がしやすいので、そこの管理をうまくできると、子育てとの心地よいバランスが保てるので、ストレスなく働くことができています。

「気候変動は待ってくれない」子どもたちに幸せな未来を残していくためにできること

「気候変動の課題解決/サステナビリティ」という分野に取り組み始めた当時から一貫して、仕事やキャリアを選択する際には「その仕事が社会の課題解決につながるのか、誰のためになるのか」を最優先に意識しています。

今では気候変動が待ったなしの人類共通課題として認識されていますし、気候変動以外にもサステナビリティに取り組む意義を理解している人も随分と増えましたが、特にソーシャルな分野に対してはまだまだ企業の中でも取り組む意義が腑に落ちていない方も多くいらっしゃいます。

そういった方々に対して、取り組むメリットを一から説明するという仕事はずっとやってきたことではありますが、未だに、精神的にも大変だし本当に納得してもらうのは難しいことだなと感じます。また、現在進行形の課題なので過去の事例に解を求められないことも非常にチャレンジングだなといつも思います。

しかしそれと同時に、世の中の潮流が変わってきたことを現場で実感すると、めげずに関わり続けてきて良かったなと感じます。短期的には成果が見えづらい仕事ですが、確実に社会の役に立っていること、課題解決に貢献していることを実感できることは一番のやりがいだと感じます。

子どもを生んで育てる親となった今、私たちが真剣に全力で取り組まないと子どもたちに幸せな未来がないという危機感と責任感が加わりました。子どもたちがさらにまた子孫を残していく希望がもてる地球を維持していかなければ、という気持ちで仕事に向き合っています。仕事ではマクロ的に課題解決に関わっていますが、日々の生活でもサステナビリティを意識して過ごすことや子どもたちに伝えていくことを心がけています。