【特別インタビュー前編】
自然エネルギー財団常務理事
大野輝之さんに聞く
今必要な気候変動対策とは?

今回は特別インタビューとして、自然エネルギー財団常務理事の大野輝之さんのインタビューを、前編・後編の2回に分けてお届けします。

大野さんは、東京都環境局でさまざまな環境・気候変動対策導入の立役者としてのご活躍を経て、現在は、自然エネルギー財団の常務理事を努めながら、国の気候変動対策の策定に関わる検討会委員や東京都の参与など、幅広く環境政策に関わっていらっしゃいます。

長年、環境・気候変動対策の政策をリードし続ける大野さんが考える、今必要な気候変動対策とは?


大野 輝之さん 自然エネルギー財団常務理事2013年より現職。カーボンプライシングなど国の気候変動対策の策定に関わる検討会委員を務める。1979年 東京都入庁。都市計画局、政策報道室などを経て、1998年より環境行政に関わる。「ディーゼル車NO作戦」の企画立案、「温室効果ガスの総量削減と排出量取引制度」の導入など、国に先駆ける東京都の環境政策を牽引した。省エネルギーの推進と自然エネルギーの導入を図る数々の施策を産業界の合意を形成して実現、都のエネルギー政策の根幹を作る。2010年から3年間、環境局長を務める。東京大学非常勤講師、イクレイ日本顧問、公益財団法人 世界自然保護基金ジャパン 理事、東京都参与。2014年、カリフォルニア州からハーゲンシュミット・クリーンエア賞を受賞。著書に 『自治体のエネルギー戦略』、『都市開発を考える』(ともに岩波新書)、『現代アメリカ都市計画』(学芸出版社)など。東京大学経済学部卒。

まずは、自然エネルギー財団について教えてください。

自然エネルギー財団が設立されたのは2011年の8月です。設立のきっかけは、2011年3月の東日本大震災と福島第一原発事故です。

設立者・会長は、ソフトバンクグループ(ソフトバンクグループジャパン株式会社)の孫正義さんです。

孫さんは、それまでは情報革命一本でやってきた方ですが、原発事故の悲惨な状況を見て、大きなショックを受けたそうです。さらに、携帯電話の電波基地局の電力がダウンして多くの携帯電話が使えなくなってしまい、携帯が使えれば救えた命もあったはずだということにも非常にショックを受けて、日本・世界で、原発のような危険なエネルギーに依存しなくてもいいように、自然エネルギーを基盤とした社会に転換しなければならないと思ったそうです。

孫さんは、ソフトバンクの社長を続けながら、自然エネルギーを増やすためのイニシアティブを始めました。ソフトバンクとしても自然エネルギー開発をするために、SBエナジーという自然エネルギー開発会社を設立し、更に、全国の道府県や政令指定都市と自然エネルギーに関する政策提言や政策の勉強などをする自然エネルギー協議会を立ち上げました。そうした孫さんのイニシアティブの一環で、ソフトバンクではなく、孫さん個人のお金から創設されたのが自然エネルギー財団です。

自然エネルギー財団のミッションは、日本・世界で自然エネルギーを基盤とした社会を作るにはどのようなことが必要なのか、研究し、情報発信し、ビジネスのサポートをしていくことです。

財団ができた当時は、自然エネルギーに関する海外の情報がほとんど入っていなかったので、日本以外では何が起きているか伝えるだけでもインパクトがありました。海外の状況が広く知られるようになってきてからは、日本の自然エネルギー政策に関する調査研究提言に力を入れています。

設立の発端は原発事故でしたが、気候変動の問題が深刻化してきているので、現在は、「脱炭素化」という観点から自然エネルギーに移行していくというのが大きなミッションになっています。

自然エネルギー財団が今最も力を入れているのはどのような分野でしょうか?

財団全体では、洋上風力発電、太陽光発電の開発促進策と、脱炭素化のための送電網の研究に力を入れています。また、昨年以来、鉄鋼部門など重化学工業のCO2排出削減の取り組みも始めています。

自然エネルギーには、地熱やバイオマスなど、色々な資源がありますが、圧倒的に伸びるポテンシャルがあるのが太陽光と風力です。日本の自然エネルギーの成長は、太陽光発電に偏っていて、風力発電はほとんど伸びていません。さらに、陸上の風力発電も必要ですが、急速に伸ばすポテンシャルがあるのが洋上風力発電です。

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洋上風力に関しては、国も2040年までに最大45GWという目標を立て、力を入れようとしていますが、洋上風力の事業者の方にヒアリングをしても、国の役割が小さい、もっと事業者へのサポートが必要だと言います。また、目標も低いです。イギリスでは、すでに約10GWの洋上風力発電設備があって、2030年までに50GWを目指すと言っています。イギリスの電力需要量は日本の3分の1なので、日本の電力需要量に当てはめて言えば、150GWくらいを洋上風力でまかなうことをめざしているということになります。圧倒的に違いますよね。高い目標を立てて、制度改革・事業者をサポートする仕組みを作っていくことが必要です。こうした洋上風力発電の開発促進について研究し、間もなく提言を出す予定です。(注:インタビュー後に提言が発表されました:「日本における洋上風力拡大加速に向けた提言」

また、自然エネルギーで発電された電力を安定して供給ができるような、しっかりとした送電網を作っていくことも大事です。脱炭素化の送電網がどうあるべきかという研究にも力を入れています。

それ以外に、重化学工業・鉄鋼業の脱炭素化についても今年中にレポートを発行する予定ですし、政府が脱炭素電源として推進しようとしているゼロエミッション火力発電についての問題への提言も検討しています。

さまざまな市民セクターの活動がある中で、非政府の研究組織として、自然エネルギー財団には、どのような役割があるとお考えですか?

環境エネルギー分野でも、いろんな環境NGOがいて、株主提案をしたり、若者グループが異議申し立てをしたりしてインパクトを出していて素晴らしいですが、キャンペーン型の行動と同時に、調査・研究・シミュレーションによって、論理的に理詰めで政策の問題点を指摘し、提言するというのも必要です。

日本では、そのような活動がほとんどありません。

むしろ政府系のシンクタンクの中には、化石燃料・原子力を使ったエネルギーシステムを維持する方向での調査結果を出すシンクタンクもいます。たとえば昨年、エネルギー基本計画を議論する過程で、自然エネルギー財団も政府の検討会で調査研究結果を報告しましたが、政府系のシンクタンクからは、日本では2050年でも自然エネルギーの電力は5,6割が限界、というような発表がありました。


日本の自然エネルギーのポテンシャルを研究し、自然エネルギー100%が可能だということをシミュレーションする、そういうことをしているのが自然エネルギー財団です。

2018年12月、炭素削減戦略の提言の様子

自然エネルギー財団では、どのように調査・研究内容が決まるのでしょうか?

最近の例では、先日G7の環境エネルギー気候大臣会議がボンで開催され、2035年までに発電部門ではほとんど脱炭素化する(predominantly decarbonized)と合意されました。自然エネルギー財団でもそれを受けて、日本でも2035年に本当にほとんどを自然エネルギー電源にできなければならない、そのための提案をしようという話になり、仕事が始まっています。

この「ほとんど」とは、普通8割9割だと思いますが、経済産業省は、51%以上ならいいと言っています。世界基準では、それで済むはずがありません。来年までに、単に太陽光が何%、風力何%というだけではなく、どこにどんな供給余力があるのか、そして、送電網は安定的に昨日するかシミュレーションし、提案することを考えています。

自然エネルギー財団には、いろいろなバックグラウンドの人がいます。

たとえば、民間の銀行系のシンクタンク出身の人がいますが、これまで依頼を受けて、契約に基づいて仕事をしていたのに比べて、もちろん財団でもなんでも好き勝手できるわけではありませんが、日本と世界を自然エネルギーに変えていくというミッションに向かって、関心・問題意識がある分野で調査・研究ができるので、モチベーションが高いです。

自然エネルギー財団は政策調査・研究を行う団体なので、それなりの実績・知識を持った人が集まっています。社会的に見ても、しっかりとした水準で給与を払っていると思います。


自然エネルギー財団常務理事大野輝之さんの特別インタビューは、後編に続きます。後編では、大野さんが東京都庁で環境行政に関わっていた際の取り組み、そして、大野さんが考えるこれから必要な気候変動対策についてお聞きしました。
後編はこちら▶️