【PICK UP INTERVIEW vol.12】子どもたちの生きる未来に、よい影響のある仕事がしたい - 公益財団法人 自然エネルギー財団 平神友美さん

Hoopus.(フーパス)は、鎌倉サステナビリティ研究所が運営する、サステナビリティと気候変動問題の解決に特化した求人サービスです。PICK UP INTERVIEWでは、気候変動解決に関わるお仕事情報をピックアップ。それぞれの団体で働く人々の熱い想いや職場の雰囲気をお伝えします。

今回インタビューしたのは、公益財団法人自然エネルギー財団に所属し、気候変動イニシアティブ(以下、JCI)の事務局で働く平神友美(ひらかみ・ともみ)さんです。大手商社から未経験での転職を経て、現在は自治体や企業などの非政府アクターの連携業務を担当。民間企業から非営利団体への転職に不安はなかったのか、実際に1年間働いて実感していることなど、お話を伺いました。

ー 葛藤を抱えながら、石油業界に10年

まず、大手商社にいらっしゃった前職の仕事について教えてください。

2012年に入社してから11年間、油井管(ゆせいかん)事業部というところにいました。油井管は、石油や天然ガスの開発・生産に使われるパイプ。欧米の石油会社から発注を受け、日本国内で仕入れて輸出する一連のトレード業務を担当していました。油井管は掘る場所などの条件に合わせてオーダーメイドでの製造が必要となるので、パイプの太さ、使用する材質の種類などの細かい調整をする必要があります。納期の相談や輸送方法の調整なども含め、海外の石油会社と国内メーカーの間に入る役割でした。

10年以上も続けてきた仕事を変えるのは、勇気のいる決断ではなかったですか?

そうですね、大きな決断でした。ただ、仕事をしながらもずっとジレンマがあって……。今の私たちの生活や社会インフラはエネルギーがなければ成り立たないですし、今すぐ全ての化石燃料の使用をやめることは現実的ではないなかで、責任を持って安全に化石燃料を開発する仕事も大事だと思っています。でも、やっぱりどこかで自然エネルギーに転換していかなきゃいけない、とずっと考えていました。ここ数年では実際に、2021年に石油大手のロイヤル・ダッチ・シェルがCO2排出量の削減を命じられたり、エクソンモービルでも株主提案が起きたりと、業界内でもエナジートランジション(低炭素化・脱炭素化等のためのエネルギー構成の移行)の動きがありました。

業界全体で、そういった動きがあったのですね。平神さんは、部内のCO2排出量の測定やESG関連業務などの業務もされていたんですよね。

「環境に関わることをしたい」と言って関わらせてもらっていました。ただ、歴史が古く事業規模も大きいビジネスにおいて、内側から大きく変えていく難しさを感じていた部分もあります。部内でも脱炭素の話題は増えていましたが、議論の内容はCCS(Carbon dioxide Capture and Storage:二酸化炭素の回収・貯留)が中心でした。個人的には、貯留場所や費用の懸念も大きいCCSよりも、自然エネルギーへの転換を最優先で進めた方がいいのではないかと考えていたんです。そういった自分の想いと、実際の仕事のギャップを感じることもあり、もっと社会をよい方向に変える仕事がしたいと思うようになっていきました。

NGOに絞っての転職活動

もともと環境問題や再生可能エネルギー分野に関心があったのでしょうか?

子どもの頃は環境問題だけに関心があったわけではなく、世界の動きに興味がありました。中学生の頃に9.11やイラク戦争が起き、紛争について考えたり、貧困問題などについて学んだりする中で、社会のために何かしたいという想いは強かったかもしれません。大学では英語を専攻し、国際関係学を勉強していました。

気候変動については、子どもが生まれてから特に危機感を持つようになりました。「この子たちが大きくなる頃には、地球はどうなってしまうんだろう」と不安になって、気候変動対策の活動をしているNGOの発信を見たり、本を読んだり、アンテナを張り始めました。

転職を決めたきっかけはありますか?

ひとつのきっかけになったのが、大手環境保全NGOに転職した前職の先輩が紹介してくれたオンライン講座です。ハーバード・ビジネス・スクール・オンラインの「Sustainable Business Strategy」というコースで学ぶなかで、個人のパーパスを考える機会があったんです。そこで改めて、「未来がよいほうへ向かう仕事がしたい」と。自分の大事にする価値観に合う仕事をしようと思い、転職を決意しました。

転職活動はどのように進めましたか?

転職先では利益に囚われることなくストレートに問題意識に向けて仕事がしたいと考え、NGOに絞って探していました。非営利セクターで働く知り合いが少なく、「どこの団体が自分の考えと合うのか」を見極めるのに少し難しさを感じていましたね。一方で、自然エネルギー財団の発信はずっと見ていて、研究者中心のシンクタンクとしてのデータに基づいた発信にとても共感していたんです。研究者ではない私が入職するのは難しいだろうと思いつつ情報を追うなかで採用募集を見つけて、「これなら!」と応募しました。以前から情報収集をしていて、NGOの活動についてある程度わかっていたこともあり、募集に飛び込むことができたんだと思います。

自然エネルギー財団への転職を決めたとき、周りの方々はどのような反応でしたか?

前職では、そこまで気候変動に危機感を持っている人は多くなかったので、「えらいね」「すごいね」と言った反応が多かったと思います。あとは「給料が下がってしまうのではないか」という心配の声も多かったですね。

実際、非営利セクターへの転職は給与が低いイメージを持っている方も多い印象です。平神さんは、その部分はネックにならなかったのでしょうか?

自然エネルギー財団は非営利団体のなかでも制度や待遇がしっかりとしていると思います。今は環境や気候分野だけでもたくさんの団体があって、きちんとした待遇で働けるところも多くあると思います。

たしかに給与を最優先に考えたい人には向いていないかもしれませんが、自分の想いを仕事にできていることで、自分自身の納得感や充実感を考えると、本当に転職してよかったと思っています。

気候変動対策の連携を強める仕事

次に、現在のお仕事について教えてください。

自然エネルギー財団は、自然エネルギーの調査・研究をしているシンクタンクで、私はそこで「連携コーディネーター」として働いています。自然エネルギー財団とWWFジャパン、CDPジャパンの3つの団体で運営をしている「気候変動イニシアティブ(JCI)」の事務局として、800近い非政府アクターの連携を強化しながら脱炭素社会の実現を目指しています。

具体的には、どのような業務をされていますか?

JCIには、企業や大学、自治体など「政府以外」の団体が集まっており、気候変動対策の観点から彼らの取り組みを後押し・サポートする業務を行っています。昨年はイベントやウェビナーを開催し、気候変動に対する海外の企業の動きや日本のGX政策についての情報提供をおこないました。あと、大切な業務として政策提言があります。JCIメッセージとして提言を作り、メンバーの賛同を募って政府に届ける活動をしています。昨年のカーボンプライシングの提言については、 企業の方々へのヒアリングや検討会をおこなって、一緒に提言を作成することもしました。

情報発信の立場になると、ご自身も常にアップデートが必要になると思いますが、勉強もされていますか?

たしかに転職後も勉強が続きますが、ずっと取り組みたかった分野なのでとても楽しいです。ウェビナーやイベントで招いた講師や専門家の方々から私自身も学ぶことが多いですね。また、自然エネルギー財団でも週に一度の勉強会があり、テーマごとに財団内外の方を講師にお呼びして質問する機会があります。仕事で関わる方々はみなさんプロフェッショナルばかりで、そのなかで学ぶ環境があるのは本当に恵まれているなと思っています。

ー 仲間と一緒に、誰もが生きやすい社会へ

気候変動対策は未経験の分野ですが、過去の経験が活かせていると感じることはありますか?

炭素排出量が一番多い分野である鉄鋼や化石燃料に関わってきたので、業界内部の動きや議論についてはある程度わかるところがあります。また、前職で企業間に入って取引の調整をしてきた部分も、JCIメンバーとのやりとりに日々活かせているのかなと思いますね。

政策提言などで企業の意見も聞きながら進める場面では、 前職で企業にいらっしゃった視点が活かせそうですね。

そうですね。企業内の意思決定の仕方や意識的なところは、感覚としてわかるように思います。私以外にも、JCI事務局にはメーカー勤務だった方や、公務員の経験がある方もいるので、さまざまなバックグラウンドの人がいるのもいいのかもしれません。特に政策提言においては、NGOだけの声は届きにくいところがあります。企業や大学など、さまざまな立場の人の声を一緒に届けることも、重要な役割だと思っています。

転職前に想像していたことと、実際に働き始めてからのギャップなどはありますか?

私は小さな子どもが2人いるので、働きやすさの面で少し不安がありました。でも、実際に働き始めてみると、業務が調整しやすくて柔軟に働けています。自然エネルギー財団には子どもがいる方も多いので、その点では問題ないです。

転職前、「NGOは個人の能力で活動を進めないといけない」というイメージがあったんです。前職ではそういった経験がなかったので不安でしたが、実際にはJCI事務局の仕事はチームで相談して動けています。わからないことを聞ける専門的な知識を持つ方も多く、みんなで一緒に進めていける安心感があるのは嬉しいギャップでした。

そのほかに、転職してよかったなと感じたエピソードがあったら教えて頂けますか。

昨年、気候変動に関する国際会議であるCOPに参加して、カーボンプライシングの政策提言を発表しました。JCI内で200以上の団体が賛同してくれた提言です。その後もメディアで取り上げられたり、政府との対話の機会があったり、インパクトのある仕事ができたのは、やはりやりがいがありましたね。

そして、同じように問題意識を持って活動されている方々とつながることができたのも、転職してよかったと思っている部分です。個人的に環境問題について調べていると、地球規模の大きな問題を考えて暗い気持ちになることもありました。今は同じ感覚で話し合える人たちがいることで、希望を持って進んでいくことができています。

では最後に、今後挑戦していきたいことや目指している未来について教えてください。

自然エネルギー財団に入ってから1年ほどで、まだまだ自分の知識が足りていないと感じることも多いです。実際に業務を進めていく上で必要な知識や情報発信の仕方、戦略も身につけていきたいですね。あと、「気候変動」というとエネルギーの話題が多くなりがちですが、実際は食や農業、建築、ファッションなどさまざまな分野の影響があります。もっと視野を広げて、幅広く学んでいきたいと考えています。

気候変動の問題は、一部の影響を受けやすい人が被害を被るなど、格差やジェンダーを含むさまざまな問題が絡み合っています。気温上昇を止めることはもちろん、もっと平等で、誰もが生きやすい社会を目指していきたいと思います。


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