【PICK UP INTERVIEW vol.13】雪を未来に残すために Protect Our Winters Japan (POW Japan)脊戸柳武彦さん

Hoopus.(フーパス)は、鎌倉サステナビリティ研究所が運営する、サステナビリティと気候変動問題の解決に特化した求人サービスです。PICK UP INTERVIEWでは、気候変動解決に関わるお仕事情報をピックアップ。それぞれの団体で働く人々の熱い想いや職場の雰囲気をお伝えします。

今回インタビューしたのは、Protect Our Winters Japan (POW JAPAN、以下「POW」)の副事務局長、脊戸柳武彦(せとやなぎ・たけひこ)さんです。POWは、スキーやスノーボードなどのスノースポーツに携わるコミュニティを中心に、気候変動解決に取り組む仲間を増やし、市民の声を届けることで脱炭素の促進をめざす団体です。富山県で生まれ育った脊戸柳さんも、3歳からスキーをはじめ、雪山に通う中で、気候変動による環境の変化を直に感じていたといいます。脊戸柳さんがどのようにPOWに出会い、仕事として気候変動に取り組むようになったのか、お話を伺いました。

ー 将来に雪を残すために、スノーコミュニティとムーブメントを起こす

まずはPOWという団体について教えてください。

Protect Our Wintersは、2007年にアメリカでプロスノーボーダーのジェレミー・ジョーンズが立ち上げた団体です。アメリカ、カナダ、ヨーロッパ、オーストラリア、ニュージーランド、日本の13カ国に広がっています。

Protect Our Winters Japanは、2019年にスタートしました。日本のパウダースノーは、JapanとPowderを掛け合わせて「JAPOW(ジャパウ)」と呼ばれています。日本は低気圧が通過していくたびに新しい雪が降るので、パウダースノーに恵まれる機会が多いんです。JAPOWを求めて日本に来る海外のスキーヤー、スノーボーダーも多く、日本に住むようになった人もたくさんいます。そのような方の一人が海外でのPOWの活動を知っていて「日本でもやった方がいいんじゃないか」と提案し、代表理事の小松吾郎がPOW Japanを立ち上げました。そこから協力者を探し、事務局長の髙田翔太郎が合流、僕も途中から参加しました。現在事務局は7人いますが、全員がスキーヤー、スノーボーダーです。

POWは、気候変動の影響で雪が昔と比べてどんどん少なくなっているなか、将来も豊かな雪の中で滑れる環境を残すために、スノースポーツの切り口から気候変動問題の解決をめざしています。目指すことは他の団体と同じですが、スノーコミュニティ*と一緒にムーブメントを作っていくということが、ユニークな点だと思います。

*スキーヤー・スノーボーダー(650万人)、アウトドアブランドやメディアをはじめとする関連企業、スキー場(500箇所超)、スノーリゾートを持つ地域・自治体(日本の約30%)- POW JAPAN websiteより

具体的にはどのような活動をされているんですか?

POW JAPANは以下の3つを柱に活動を進めています。

  1. 行動する仲間を増やす
  2. 私たちの遊び場”スノータウン”のサステナブル化を促す
  3. 国の脱炭素化に向けて、市民の立場から変化をおこす

気候変動問題を解決するためには、国の政策、電力の作り方、インフラ、産業のあり方が変わる必要がありますよね。POWも、再生可能エネルギーを中心とした持続可能な社会にシフトしていくための変化を促すために活動しています。それがないと雪山を守れない、ということですね。

社会システムに変化を起こすには、多くの人がその変化を望み、声をあげる必要があります。そのためにPOWはスノーコミュニティに影響力を持つパートナー企業やアンバサダー達と共に、イベントやキャンペーン、啓発活動を通じて仲間を増やしています。

一つの例として、アンバサダーでもあるプロアスリートによる環境教育プログラムがあります。彼らは国内・世界の色々な場所に滑りに行く中で、自然環境の変化を見たり感じたりした体験を通して気候変動の影響について伝えることができます。プロのスキーヤー、スノーボーダーが話すということで興味を持って集まってくれる人も多いですし、スノースポーツをしている人にとっては、話がスッと入ってきやすくなります。

まさにスノーコミュニティに特化したアプローチですね。

昨年、代々木公園で開催されたイベントとパレードに参加した時には、アウトドアに親しんでいる人たちが参加しやすい企画を行いました。パタゴニアやBurton、UPLNDなどのパートナー企業と一緒にアウトドアアクティビティの雰囲気があるエリアを作って、パレードに楽しく参加できるように、フェイスペイントやプラカード作り、シルクスクリーンのプリントができるブースを用意したりしました。その日のキャッチコピーは「March for THE DAY」にしました。THE DAYというのは、雪の状態が良くて、天気もよくて、すべてが最高の日という意味で、そういう日を守るためにマーチしようぜ、と呼びかけたんです。楽しい環境を作って、楽しく政治に訴える。ハードルは高くないよって印象付けながら参加してもらえるように工夫しています。

代々木公園で開催されたイベント

もう一つの活動は、スキー場がある地域から脱炭素化、サステナブル化を進めるという活動です。スキーヤー・スノーボーダーにとって、地元や遊びに行く先として身近なスノータウンがサステナブル化していく事は、コミュニティが実感しやすく、自分事として捉える事ができます。この部分をさらに推し進めるためにPOW JAPANでは、2023年12月に脱炭素・サステナブル化を目指すスキー場のネットワークとして「サステナブル リゾート アライアンス」を発足しました。このアライアンスはスキーヤー・スノーボーダーもスキー場の変化を応援参加できるプラットフォームとしても活用していきます。また、スキー場はスノータウンにとって大きな産業の一つで、地元の方々が関わる場所でもあります。そういった施設が変化することで、周りの人が環境に対して意識を変えていく。そうすると自治体の変化も促せる。スキー場から自治体まで、広い範囲で変化を促すことにもつながる可能性があります。

ー 冬は午前中に滑って、午後からミーティング。雪山で遊ぶことで仲間が増える

POW Japan事務局のチームや働き方について教えてください。

POW Japanの事務局メンバーは全部で7人です。人数は少ないので、パートナー企業やアンバサダーと一緒に活動しています。

僕は主にパートナー企業やスキー場アライアンスの窓口を担当していますが、SNSやホームページのような対外的なアウトプットの担当、プロジェクトのリード役、バックオフィス業務など、それぞれが得意分野をメインにしつつ、大きなプロジェクトは何人かのチームを作るという形で進めています。

POWはオフィスがないのでほぼリモートワークです。週1回の定例ミーティングがあって、あとは各自、あるいはプロジェクトチーム単位で連携しています。時間もフレキシブルで、個人の裁量で進めています。全員がスキーヤー、スノーボーダーなので、冬は特に雪のいい日は午前中は滑りに行って午後からミーティングするなど、楽しみながらやっていますね。それがまた活動への活力になりますし、スキー場で仲間も増えていくので、楽しい時間をシェアすることもムーブメントを広める上で大事だと思っています。

脊戸柳さんが気候変動に関心を持ち始めたきっかけを教えてください。

僕は生まれが富山県の雪国育ちなのですが、親の影響でスキーは3歳からやっています。ほとんど毎年滑っていて、大人になってからはバックカントリー(スキー場などの管理された場所ではなく自然の山を滑ること)などの新しい楽しみも見つけて、ずっと続けてきました。

3歳からスキーを始め、雪国の環境の変化を感じてきた脊戸柳さん

昔の富山県では、平地でも1メートル以上積もるような年もあったり、標高が高くなるにつれ家の屋根の上にものすごい雪が積もっていたり、長いつららがあったり、それを見てワクワクしながらスキー場に行った記憶があります。でも最近はスキー場に行くまで雪がない。昔と比べて雪の量がかなり減っています。

POWのことを知ったのは、ちょうど前職を退職した時期でした。それまでは関東の精密機器メーカーで働いていたのですが、関東から毎週のように車を飛ばして雪山に遊びに来ていました。長距離移動で排出するCO2も時間も無駄だし、山に近い方がウィンタースポーツをするためのいい条件が揃う日にその場にいられるので、雪山に近いところに引っ越そうと思ったんです。

もう一つ転機になったのは東日本大震災です。その時僕は栃木の宇都宮に住んでいたのですが、200kmも離れていない原子力発電所での事故は自分事として危機感を感じましたし、ガソリンの売り切れなどを経験して、エネルギー自給率が低いことに危機感が高まりました。そしてエネルギーと気候変動の相関する問題の解決につながる再生可能エネルギーにシフトしていく必要があると思いました。でも個人でできることには限界もあるし…と思っていたところでした。

そんな時に日本でPOWが立ち上がって、「あ、これだな」と、ピンときたような感じでした。

企業から非営利団体への転職で、ギャップを感じたりはしませんでしたか?

働くようになって一番思うのは、大きな企業では分業が進んでいるので、自分にできる範囲は限られているけれど、NGO・非営利団体はどこも大体少人数の団体なので、個人の裁量でやることが多く、求められることが幅広いということです。

企業は、会社としての社会への影響力、サプライチェーンを含めた脱炭素の効果は大きいですが、自分自身が脱炭素・環境対策のプロジェクトに関われるかというとチャンスは少なかったり、役割は限定的だったりすると思います。

直接関わる人が多く、周りの人が変わっていくのを間近で見ることができるなど変化を実感できるので、そういうところにやりがいを感じる人にとっては、いい職場だと思いますね。

今後POWで求人する場合、どんな方に入って欲しいですか?

まずスノースポーツをやってるということは一番大事だと思います。そして、新しいことにチャレンジすることに躊躇がない人、固定概念にとらわれない四角ではなく丸い頭を持った人。そんな人が適していると思います。

POWでは、パートナー企業やスキー場、アンバサダーなど、たくさんの人と協力しながら活動していますが、1度うまく行ったことでも、相手がかわると状況も方針も違うので、全ての相手と同じ方法でうまくいくかというとそうでもありません。新しいことを生み出して、どうやってインパクトを大きくしていくかという視点で、一緒に活動できる人にぜひ仲間に入って欲しいと思います。


あなたの経験やスキル、そして地球環境への思いを活かして、気候変動の解決を仕事にしてみませんか。Hoopus.が、サステナビリティと気候変動を解決する仕事への転職をサポートします。利用者登録をすると、現在公開中の求人情報を閲覧でき、最新情報がメールマガジンでも届きます。

登録して求人を見る