【PICK UP INTERVIEW vol.14】気候変動分野で変化を起こせる人を育てる コミュニティ・オーガナイジング ・ ジャパン(COJ)佐野はるかさん
Hoopus.(フーパス)は、鎌倉サステナビリティ研究所(KSI.)が運営する、サステナビリティと気候変動問題の解決に特化した求人サービスです。PICK UP INTERVIEWでは、気候変動解決に関わるお仕事情報をピックアップ。それぞれの団体で働く人々の熱い想いや職場の雰囲気をお伝えします。
今回インタビューしたのは、コミュニティ・オーガナイジング ・ ジャパン(以下、COJ)の佐野はるか(さの・はるか)さんです。COJは、人々の力で社会を変えるコミュニティ・オーガナイジングの手法を日本で広めるために、トレーニングやコミュニティのサポートをしている団体で、近年は気候変動のプログラムにも力を入れています。佐野さんは、大学時代にコミュニティ・オーガナイジングの手法を使って自分たちの課題を解決した成功体験を持ち、卒業後はコンサルタントを経てCOJに転職しました。心からやりがいを感じるCOJの仕事でも、「やっぱり転職は怖かった」という佐野さん。転職した時の思い、そして転職を経て今感じている仕事に対する考え方についてもお聞きしました。
ー 人々の力で社会を変えるコミュニティ・オーガナイジング
まずはコミュニティ・オーガナイジング ・ ジャパン(COJ)について教えてください。
コミュニティ・オーガナイジング ・ ジャパン(COJ)は、特定非営利活動法人のNPOです。2014年に設立して、今年10年目を迎えました。
設立当初は、コミュニティ・オーガナイジングの手法を学びたいという人を対象にした社会人塾のような色も強かったのですが、最近は個人のアクティビストや団体・NPOで働いている人に対してワークショップやサポートを提供することが多くなっています。年に2、3回定期開催するワークショップに加えて、NPOや労働組合、大学などに出向いて、その組織に特化した出張ワークショップを行ったりしています。
気候変動のプログラムは、2021年の秋に始まりました。気候変動分野の市民活動をコミュニティ・オーガナイジングの手法で底上げしていこうという方針のもと、ワークショップを無料で開催したり、ワークショップ後も活動に伴走してサポートしたりと、中長期的なプログラムを提供しています。
そもそも、コミュニティ・オーガナイジングとはなんですか?
コミュニティ・オーガナイジングは、「人々の力で社会を変えるやり方と考え方」です。みんなが持っている経験、スキル、時間、知識、人脈、場所などを、コミュニティ・オーガナイジングでは「資源」と呼ぶのですが、それをどう組み合わせて、どうやって目的を達成するか。その手法がコミュニティ・オーガナイジングです。
コミュニティ・オーガナイジングの手法にはいろいろなものがあるのですが、COJが取り入れているのは、ハーバード大学のマーシャル・ガンツ博士が公民権運動や労働者運動などの経験を経て体系化したもので、アメリカで黒人初の大統領となったオバマ元大統領の選挙を成功に導いたことでも有名です。
この手法の特徴は、運動には心のつながりが必要、としている点だと思います。戦略や知識などの頭の部分だけでなく、一緒に活動するチームが価値観や想いで繋がって、目的を共有しながら活動していくことを大切にしているフレームワークです。
気候変動分野で、コミュニティ・オーガナイジングで成功した事例にはどんなものがありますか?
東京・国立市に「ゼロエミッションを実現する会 国立」というチームがあるのですが、去年、市の温暖化対策実行計画の素案に、2030年の温室効果ガスを62%削減(2013年比)という目標を入れてもらうことをゴールに活動し、それを達成しました。
このチームのキャンペーンがうまく行ったのは、仮説を立てて行動したということが大きかったと思います。コミュニティ・オーガナイジングでは、まず関係者をマッピングして、その人たちについて調べていきます。国立市のどの課が温暖化対策実行計画を立てるの?担当者や意思決定者は誰?その人はどんなことに関心があるの?そんなことを調べていく中で、変化を起こせる道筋を見つけていきます。
国立市のチームの場合は、温暖化対策実行計画の担当者にはお子さんがいて、実は温暖化の事が気になっているということがわかりました。しかも、市が野心的な温暖化対策を立てたところで、市民が理解してくれるかわからなくて躊躇している、ということも見えてきました。
そこで「ゼロエミッションを実現する会 国立」のメンバーたちは、「どうしてやってくれないの?」というような相手を非難する言葉ではなく、「一緒にやりましょう!」「応援してます」というような応援メッセージを集めて、担当者に届けることにしました。
より具体的な応援メッセージを届けるために、署名サイトではなく、自由にメッセージを書き入れられるGoogleフォームに市民の皆さんの声を寄せてもらい、手書きの寄せ書きも集めて、手渡しました。それが、62%という国よりも野心的な温室効果ガス削減目標を入れるという成果に繋がりました。
お話しいただいた事例のように、社会を変えるために自分から動ける人を増やしていく、ということがCOJのミッションなんですね。
COJの役割は、環境問題や気候変動に直接的な変化を起こすことではなく、変化を起こせる人を育てることだと思っています。
社会運動には色々な関わり方がありますが、誰かがオーガナイズしたアクションやイベントに参加するだけだと、参加者としては成果が出れば一緒に喜ぶけれど、期待した成果がでなかった時に次はどうすればいいかわからなかったり、成果がでない状態が続くと疲れてしまって、運動から離れてしまったりすることがあると思います。
コミュニティ・オーガナイジングでは、関わる人一人ひとりのリーダーシップを伸ばすことを大切にしています。それぞれが自分の成長を感じられ、チームとしてできることが増え、それが成果につながっていく。そうやって自分たちの力で課題を見つけ、戦略を立て、チームを作って行動に移せる人を育てて行きたいと思っています。
COJのチームと働き方について教えてください。
COJは、今7名のスタッフがいます。そのうちの私を含めた3名が気候変動部門の担当です。
気候変動部門では、ワークショップなどの大きなプログラムはタスクを細分化してみんなで進めながら、「ゼロエミッションを実現する会 国立」のようなチームの伴走を、それぞれが複数チームずつ担当しています。
私の場合、朝はゆっくりスタートします。というのも、私たちがプログラムを提供している市民の方の多くは、日中は他の仕事・活動をしていらっしゃいます。ですので、夜7時以降にミーティングやコーチングが入ることが多いんです。その分、午前中はのんびりして、午後からワークショップの設計をしたり、夜のミーティングの準備をしたりします。
私はCOJにパートタイムで関わっていて、並行してLeading Change Network(以下、LCN)という団体でも働いているので、曜日を分けて働いています。LCNはコミュニティ・オーガナイジングを国際的に広め、オーガナイザーをサポートする活動をしている団体で、キャンペーンの成功事例をまとめたり、オーガナイジングの手法を復習・練習する会を開いたり、トレーニングのプログラムを提供したりしています。
ー アメリカの大学生活で得た自分たちの力で変化を起こす成功体験
どのようにコミュニティ・オーガナイジングに出会ったのですか?
私はアメリカの大学に行っていたのですが、キャンパスライフのなかで、学生が声を上げるということを日常的にみんながやっていたんですよね。学生たちがコミュニティ・オーガナイジングの情報をインターネットから探してきたり、先輩に教えてもらったりして、実践していました。
実はそれまで私は、社会問題にそんなに関心を持っていなかったんです。でも大学で出会った友人たちの中には、いろいろな課題に直面している子もいました。例えば、同じ寮に住んでいた友人が、好きな人の話を打ち明けてくれたのですが、「私は黒人だから白人の彼とは付き合えないと思う」って言うんです。一緒に生活していた親友の話だったからこそ、社会の問題が自分の問題になっていきました。そのあとブラックライブズマター運動が盛り上がって、私も運動にのめり込んでいきました。
私自身もコミュニティ・オーガナイジングの手法で変化を起こす小さな成功体験を持つことができました。コーラスをやっていたのですが、衣装が男性はタキシード、女性はスカートと決まっていたんですね。友達が「ノンバイナリーだからもうスカートは嫌だな」と言うので、一緒に指揮者の先生に話に行ったんです。そうしたら「あなたはいいけど、他のみんなはタキシードかスカートね」と言うんですよ。誰もがジェンダーニュートラルな衣装を選べるようにしたいと言ったんですが、聞いてくれなくて。それで、コミュニティ・オーガナイジングについて学んで、指揮者の先生に対して影響力を持っている人は誰なのか調べたり、その人に話に行ったりして、最終的には全員がジェンダーニュートラルな衣装を着られるようになりました。
大学時代に自分自身でコミュニティ・オーガナイジングのパワーを体感していたんですね。将来それが自分の仕事になると想像していましたか?
実は、何を仕事にしたらいいんだろうって、結構落ち込んでいたんです。NPOで働くなんて考えたこともなかったので、卒業してから、コミュニティ・オーガナイジングや社会問題への取り組みが仕事になるとは、その時は思えなくて。
大学3年の夏休みに、日本に一時帰国してコンサルティング企業でインターンをして、ひとまずそこで内定をいただきました。大学に戻ってからは、コーラス部の衣装についてのオーガナイジングの方が大事!と思って就職活動する時間もなかったので、まずはそのコンサルティング会社に就職することにしました。
インターンをする前はコンサルにギラギラ、ガツガツしたイメージを持っていたのですが、その会社は柔らかい雰囲気だったこともあって、4年半ほど在籍しました。
やはりつらいことも多かったですね。忙しい上に、大手の会社がよりお金持ちになるためにどうしたらいいかを考える仕事なので、なんのためにこれをやってるんだろうと思うこともありました。
疑問を共有できる人が会社の中にはいないこともつらかったです。気持ちを共有しても、「まあ仕方ないよね、食べていかなきゃいけない」という反応で。その環境に長くいればいるほど、そういう考え方に染まっていくのかなと思って、早く出なきゃいけないような気がしていました。
ー毎日の仕事での充実感は お金に変えられない価値
COJにはどのように転職したのですか?
新型コロナウイルスのパンデミックが転機の1つになりました。その時COJから派生したグループが、大学でワークショップをするのにボランティアのコーチを募集しているという情報をSNSで見たんです。これは私がやりたかったことかもしれない。そう思って、飛び込みました。それをきっかけにしてCOJのコミュニティと繋がることができて、職員募集のタイミングで、応募してみることにしました。
最初の1年は、半分コンサル、半分COJという働き方をさせてもらっていたのですが、コンサルからは卒業することにしました。正直、コンサルからNPOに切り替えるのは怖かったですね。一番大きかったのは、やっぱりお金の面でした。でも、私は掛け持ちからスタートしたので、運よく段階を踏んで移行できたかなと思います。
パッションを持っていることに仕事として取り組む今は、どのようなお気持ちですか?
お金に変えられない価値があるなと感じています。毎日の仕事、毎日の生活のなかで充実感があって、仕事しながら嬉しくてついニコニコしてしまうような時もあります。た〜のし〜!みたいな(笑)
仕事はただお金をもらうためにやっている、という人もいますよね。そのお金で旅行に行って、美味しいものを食べて、そのために仕事は妥協して生きているという人もいるんじゃないかなと思うんです。でもそんな中で、もしやりたいことが見えていたり、やりがいを感じることを見つけているのであれば、それはすごく素敵なことで、諦めるのはもったいないと感じます。どんな社会を作りたいか、その中で自分の役割は何かを熟考して、自分自身のパッションを見つけて、ワクワク仕事に取り組める人が増えたらいいなと願っています。
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